移籍の舞台裏


「やあ」
「やあ。君は誰だ?」
「誰でもいいさ。少し話があるんだよ」
「私には無いね。悪戯なら切るぞ」
「今から練習かい?」
「そうだ。もう切るぞ。今日は怪我人が帰ってくるんでね」
「こないよ」
「何だって?」






「あんたの大事なディアビのことを言ってるんなら、彼は来ないよ」
「どういうことだ。もしや彼を―」
「落ちつけよ。ただ彼を昨夜の食事に招いただけさ。彼はそのまま泊ったから、今も向こうの部屋でテレビを見ているよ」
「一体何が言いたいんだ?」
「あんたに一つお願いがあるんだ」
「見ず知らずの男のお願いを聞く筋合いは無いね」
「あるさ。俺がちょっと部屋の向こうに声を掛ければ、ディアビマーマレードの便に手を伸ばしてくれるんだぜ」
「待て!そんなことをすれば―」
「アキレス腱が音を立てて切れるだろうな」
「何と卑劣な。君には恥というものがないのか」
「おっと、口を慎めよ、ムシュー。彼にチャンネルを変えてほしいのかい?彼の左ひざがリモコンの重さに耐えられるか、見ものだな」





(数十秒の沈黙。やがて重いため息)





「わかった。要求を聞こう」
「物わかりが良いじゃないか。」
「望みはなんだ?」
「簡単なことだよ。マーケットが閉まる前に、キム・シェルストロムを獲得してくれ」
「彼はセントラル・ミッドフィールドの選手だぞ。私が同じ場所に何人の選手を抱えていると思ってるんだ」
「だからこそさ」
「しかも彼はもう31歳なんだぞ」
「だろうね」
「おまけに背中に古傷があると来ている。メディカルチェックで引っ掛かったら良い面の皮だ」
「その通りさ」
「私を笑い物にしたいのか?」
「まあ、モウリーニョはまた一つからかいの種ができたと思うだろうね」
「卑怯なやつめ。仕方が無い。要求を聞こう。イヴァンは私が説得する。それで、ディアビは確かに開放してくれるんだろうね?」
「するとも。今日はベル・レーンの交差点まで送ってやるさ。だがムッシュー、忘れるなよ、俺はいつでもディアビや、ロシツキや、アルテータに、物置の電球を替えてきてくれと頼むことができるんだぜ」

ストライカーの売買と評価に関する小話(2)

さて、続編は個別のストライカーのディール(今回は獲得のみ)に対する評価である。
あの移籍は当たりだった、いや外れだった、と議論するのに何か尺度がほしいので、データをさっくり集めてみた。
基本的には、前編と同じく、「獲得時にかかったコスト」に対するリターン(ゴール)でコストパフォーマンスを見ようという話である。



問題になるのは、コストパフォーマンスだけで評価していいのか?という点。
コストパフォーマンスは相対的な指標なので、獲得金額が安ければ当然、金額当たりの得点数は多くなる。
例えばデライアス・ヴァッセルは£2Mで獲得され、シティ在籍中に22点獲ったので£1M当たり11点だが、セルヒオ・アグエロは£39.6Mで75点なので、£1M当たり1.9点だ。
ヴァッセルのコストパフォーマンスはなんとアグエロの約6倍。ヴァッセルの方が良いディールでしたね。いやいやちょっと待て。



そこで、絶対的な指標として「在籍中の1シーズン当たりの平均得点数」も併せて用いる。
移籍金がいくらかかろうが、得点がチームの勝利に与えた影響は同じだからである
。移籍金フリーで獲得しようが、£100Mで獲得しようが、10点決めてくれたことには変わりはない。
いくらかかろうが1シーズン20点とれば「まあまあクオリティとしては良い選手だった」と言って良かろうし、タダでも1シーズン2点しか取らなければ良いFWだったとは評価し難いであろう。



重要なのは「£1M当たり何点取っていればコストパフォーマンスが良かったと言えるのか」「1シーズン当たり何点取っていれば絶対的に良いストライカーだったと言えるのか」である。
前者は対象6クラブの全ディールについて平均を取れば相対的な指標としては済む話だが、後者は議論のあるところである。ひとまず案としては以下の通り。





縦軸が件の「1シーズン当たり何点取っていれば絶対的に良いストライカーだったと言えるのか」だが、ここでは5点、15点、25点を1つの基準としたい
カップ戦等全てのコンペティションを含めての得点数が対象なので、リーグ戦に限ればそれぞれ4,5点引くイメージ。
まず5点以下はリーグ戦でほとんど点が取れていないということであり、いくらで買おうがビッグクラブのFWとしては失格であろう。
15点はリーグ戦で二桁行くか行かないかというところで、安ければまあなんとか許せる、高ければ相当に損した感があるくらいの水準ではなかろうか。
16点〜25点(リーグ戦で15〜20点前後)は移籍金がいくらかかろうがまあまあ許せる範囲内で、25点を超えれば毎シーズン得点王が狙えるレベルなので、十分評価できる水準だろう。



コストパフォーマンスの軸と組み合わせた各セグメント(色のついた円)はそれぞれ以下のような評価である。


(1)ドブ:コストパフォーマンスは平均以下、シーズン平均5点以下。高いわ点は取れないわで、ディールとしては踏んだり蹴ったりである。
ドブに捨てたと見て宜しい。(売却で回収できる場合もあるのだが、今回はややこしくなるので置いておく)


(2)もったいない:平均得点は15点以下(リーグ戦で二桁行くか行かないか)で、コストパフォーマンスは悪いグループ。
そこそこ金を出したのにさほど点を積み重ねてくれず、かつシーズン平均でもその程度では、もっと他の買い物があったのではないかと思われる。
ここまでは失敗したディールと位置付けるべきグループ(赤い円)。



(3)安かろう悪かろう:平均得点は15点以下(リーグ戦で二桁行くか行かないか)だが、コストパフォーマンスは平均より良かったグループ。
すなわちあんまり点取ってないけど安かった選手である。


(4)ぜいたく品:15~20点取っているのでストライカーとしては純粋に有能なのだが、いかんせんコストパフォーマンスは悪かったグループ。やや割高感がある。
評価が分かれるのがこの(3)(4)(緑の円)で、予算が相対的に少ないクラブなら費用なりの活躍はする前者はあり、反対に金はあるからとにかく早く成績を求めるというなら後者はあり。となるのであろう。




(5)値段には理由がある:理由と書いてわけと読む。夜露死苦
相当高かったのでまだコスパが平均を上回るほど(通算で)得点していないが、毎シーズン25点以上は取るということで、値段は張ったが戦力的には大きなプラスであったと言えよう。


(6)世紀のバーゲン:コスパが良い上にめちゃめちゃ点取ったグループ。安値で買ってきて初年度から大爆発するというおとぎ話か、値段は張ったが複数年に渡って相当の得点を積み上げ続けた人たちが位置する。この(5)(6)(青い円)は、ディールとしては成功だったと言って良いと思われる。




で、さっそくかつての(すいませんね)ビッグ4にシティ、トッテナムを加えた6クラブの各選手をプロットしてみたのが下の図。
対象は前編と同じく、基準を揃えるために、シティがアブダビ化した2008/09以降である。なお、話がめんどくさくなるので移籍金フリーの選手は外している。


はい




解説は時間が無いのでまた後日。

ストライカーの売買と評価に関する小話


このような記事が出ていた。


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150118-00272442-soccerk-socc#_=_


曰く、アブダビ化以来シティが行ってきたFWの獲得は”乱費“で、”費用対効果は驚くほど低い“そうなのである。
記事によれば

クリスティアーノ・ロナウド(約130億円)とガレス・ベイル(約130億円)、3位のルイス・スアレス(約111億円)を獲得しても、十分お釣りがくる

とのことだが、今までに472億円使ってなかったらそもそもロナウドやベイルを獲得できるレベルのクラブになって無い気がするんですけど、という話は置いておいて、シティにそのようなイメージを持つ人が多いのは事実であろう。
今回はFW獲得における“費用対効果”を検証するとともに、ビッグクラブのFW獲得戦略について評価する基準をいくつか提案してみたい。してみたいだって。うひゃー。





“投資対効果が低い”“乱費”の意味するところとしては、そもそもの投資額が群を抜いて大きいということに加え、(1)投資金額の割に獲得したFWが対して活躍していない、(2)大金を投じたFWがすぐに退団する、(3)FW獲得に投じた資金が無駄になっている、の3点に分解できよう。できると思うんです。多分。
言い換えればリターンが少ない、償却できていない、リソースの減少に繋がっている、と言うこともできる。





(1)投資金額に対するリターンが小さい?


リターン、すなわち選手の活躍度合いを数値化することは難しいが、幸いなことに今回はFWの話なので、単純に得点数が指標として使える。
そこで今回は“選手を獲得した際の費用=移籍金”と、“在籍中の得点数”を対象とする。ちなみに選手自体をコストパフォーマンスで評価しようと思えば給与額を使うべきと思われるが、今回は移籍市場におけるクラブのパフォーマンスを評価したいので、移籍金を用いる。
対象はシティが“アブダビ化”した2008/09シーズン以降に獲得した選手とその移籍金で、得点数は2013/14シーズンまで。



はい。




シティの「移籍金£1M当たりの得点数」は1.22。百万ポンド使うごとに、1.22点得られている計算になる。
チェルシーよりは良いが、その他の4チームよりは低い。6チームの単純平均は1.75点/£1Mなので、群を抜いて投資対効果が悪いとは言えなさそうである。
また、シティファンとして喜ばしいのは、シーズン別に獲得した選手のゴール数と移籍金を比べると、年々効率性が改善していることである(通算ゴールが対象になるため、2013/14シーズンの評価は悪くなりやすい)。



すなわち、移籍市場における戦略策定およびそのデリバリーの精度が年々高まっているものと考えられる。
ジョーとかサンタクルスとかその辺に&20M近く突っ込んでいた頃とは違うのだよ。





(2)FWの入れ替わりが激しい?


結論から言えば、実働で見ればそんなことはない。
下記は、(ローン等に出されず)実際に各FWがそれぞれのクラブでプレーした実働シーズンの平均を見たものだが、意外なことにシティは長い方なのである。
(実働で見るのは、ローン放出での大規模な収入が見込めない以上、実際に各クラブでプレーしない限り、投資額の償却にはなっていないと考えられるため)



これは即戦力を買っているため、どの選手も基本的に1回はフルシーズンを戦わせていることが影響していると思われる。
反対にアーセナルは若い選手を先行投資的に買うことが多いため、ローンの連続で結果的に実働シーズンが短くなる例がある。例えばジョエル・キャンベル。
ただし、詳細は後で見るものの、ジェルヴィーニョパク・チュヨンポドルスキ等明確に投資対効果が高かったと言える選手が少なかったために、回転が速くなっている一面も確かにある。







(3)投資金額が無駄になっている


パフォーマンス面で群を抜いて無駄になっているわけではないことは(1)で確認したため、ここでは売却ディールによって当初の投資金額(購入時の金額)がどの程度回収できたかを見る。
ただし、現在も在籍中の選手については売却金額が確定していないので、Transfermarkt.ukの市場金額によって代用する。これも結論から言えば、そこそこ良い方である。



リヴァプールアーセナルは対象期間内の売買で利益を出している(ないしは出せる)が、リヴァプールはご存知スアレスの売却によるところが大きい。
加えて言えば、キーンやキャロルといった評価の低い物件がそこそこ高額で売れていることも影響している。キーン、サイドハーフとかやってたよね。あの頃。



また、アーセナルはジルー、キャンベルといった現在在籍中の選手を今すぐ手放したら、という前提なので、その点が影響していることは考慮されたし。
シティの数字がさほど悪くないのは、在籍中のアグエロ、ジェコ、ヨベティッチの市場価値がさほど下落していないことに加え、ネグレドバロテッリテベスといった選手についても一定程度(約50%〜125%)を回収できていることによる。








ということで、思ったほどシティの投資対効果は悪くない(少なくとも上位6クラブの中で群を抜くほどでは)ということであった。
まあそもそも、5年で10位から国内主要タイトル全て獲得の状態まで行ったところで”費用対効果”はあったじゃないかと言うことも可能だが、もう少し細かく議論するための材料としては以上のところである。



さて個別のFWに対するディールの評価だが、長くなったので記事を分ける。

シティの財政状況について

(This post cites the article from The Swiss Ramble: Manchester City - Roll With It


サッカークラブの財政についていつも参考になる記事をアップしてくれるThe Swiss Rambleが、シティについての記事を掲載していたので、一部翻訳してみた。
題名は「Roll with it」。明らかにoasisの名曲からのインスパイアだが、要するにシティの財政は好調だということである。
長いよ!と言う人は赤文字のところだけ読んどけ。
ではまずは収支状況の概観から。


2013/14シーズン、マンチェスター・シティはここ3年で2回目のリーグ優勝を果たした。また、キャピタルワンカップの優勝により、この4シーズンで国内の全主要タイトルを最低でも1回は獲得したことになる。


ピッチ外の戦略も着々と実行されつつある。
・総収入は271M£から347M£に増加
・内訳としては、放映権収入が51%、入場収入が20%、コマーシャル収入が16%それぞれ増加
・3年連続で損失額が減少
損失額は前シーズンの52M£から半分以下の23M£まで削減された。というか、FFPの罰則金16M£が無ければほとんど損益トントンだったのだ。2014/15シーズンは利益が出る見込みである。


損失の削減(29M£)はプラス効果として
プレミアリーグの新契約による放映権収入増大(+39M£)
・スポンサー料増加(+23M£)
・給与の削減(+23M£)があった一方で、マイナスとして

FFPの罰則金(▲16M£)、
・“知的財産”の売却収入が無くなったこと(▲46M£)の相殺の結果である。



特筆すべき2点について触れておこう。(a)EBITDAはほぼ2倍の75M£に増加した。(b)2014年の決算値は、選手売却部分の利益を実質的に含めていない。つまり、この点からの利益増加が見込めるのだ。
2012/13の決算値は「その他営業収入」48M£によって下駄を履かされたものだった。これは知的財産の売却(22.5M£が支店クラブへ、24.5M£がサードパーティへ)によるものだ。2013/14シーズンの数値には、もはやこの部分が含まれていない。


EBITDAというのは営業キャッシュフローに近い概念なので、要するにPL上損失が出ていても、商売としてはキャッシュを生んでいるということ。
また「支店クラブへの知的財産の売却」(”the sale of intellectual property (£22.5 million to subsidiaries”)というのは、NYシティ、メルボルンシティのことである。支店に「ノウハウ」とか何とか称して売りつけることで売上が入るのだ。ナイス錬金術!。マリノスも基本的にはこの文脈でグループに加えられている。



損失額の推移

最後にシティが利益を計上したのは2006年に遡る(10M£)。それ以来シティは合計で628M£もの損失を計上してきたが、それでも2011年以降損失額は毎年半減のペースで削減され続けている。

欧州サッカーの最高レベルで戦うのに必要な選手層と施設を揃えるための重点投資期間を経て、シティは確信を持って、将来的な利益を見込めるようになった。チェアマンのハルドゥーン・アル=ムバラクが「今日、我々は6年前に到達したいと思っていた場所にいる」と認めたように、オーナーたちの“マスタープラン”は堅調に進みつつあるのだ。



次に、収入の状況についての概観。下のグラフは収入の推移だ。

2009年以降、シティの営業収入は87M£から347M£まで、約300%増加した。主な要因は商業収入(スポンサー料やユニフォーム等)の増加で、なんと821%も増えている(18M£から166M£に)。放映権収入は48M£から133M£に、入場収入は21M£から47M£にそれぞれ増加した。
昨シーズンだけでも、収入は271M£から347M£に、+76M£も拡大した。これはイングランドのトップ4(マンUチェルシーアーセナル)の中でも最高のパフォーマンスだ。


また、シティは収入の48%を商業収入が占めているが、これはイングランドのクラブで最も高い比率である。マンUは44%で、アーセナルに至っては26%だ。シティの収入のうち、放映権収入は38%で、入場収入は14%に過ぎない。


シティの営業収入規模はイングランドマンUに次ぐ2番目。マンUの433M£には約100M£ほど劣るが、チェルシーアーセナルには勝っている。欧州全体で見ると、2012/13シーズンは6位。悪くない業績ではあるが、スペインの巨人たちにはまだまだ遠い。


収入の内訳についてだが、放映権料は大した話では無いので割愛。CL出れて良かったねということである。
商業収入(Commercial revenue)については以下の通り。

商業収入は2013/14シーズンに16%増加し、166M£に到達した。大半はクラブの所有権があるアブダビに関連するものだが、パートナーの数は133%増加し、35に達した。(UKとグローバルが25、その他の各地域が10)



チーフ・エグゼクティブのフェラン・ソリアーノは「UK、アメリカ、オーストラリア、日本にクラブを有するシティフットボールグループの設立によって、我々の商業機会は拡大され、すでに日産、エティハド、ヘイズとのグローバルパートナーシップが始まっています」と述べている。しかし、アディダスアリアンツアウディといった極上クラスのスポンサーとのおいしい契約で商業収入を233M£まで増やしたバイエルンや、カタール観光局との200M€もの契約を結んだPSGには大きく劣っているのが現状である。



シティのコマーシャル契約のうち最大なのがエティハド航空で、期間は10年以上、金額にして400M£に及び、ユニフォームの胸、スタジアムの名称をカバーする。シーズン単位でのユニフォームのスポンサーシップ規模で言えば、シティはマンU(シヴォレー、47M£)、アーセナルエミレーツ、30M£)に次いでリーグ3位(20M£)だ。プレスの予測では、エティハドのスポンサー契約はさらに5年延長され、320M£をもたらす見込みである。現行契約はすでに3年が経過しているため、新契約は毎年のスポンサー料を50M£増加させることになるだろう。



さらに、シティは新たに3つのパートナーと80M£に及ぶ5年契約を結ぶと見られている。この契約はリザーブチームとアカデミー用に使われる7,000人収容のスタジアムを含む、新しいトレーニング施設群をスポンサードするものだ。
NIKEとのキット・サプライヤー契約(6年間、毎年12M£)はそれまでのアンブロとの契約の2倍以上だが、それでも改善の余地がある。他のクラブの最近の契約と比べると、明確に劣っているためだ。(マンUAdidasと75M£、アーセナル:PUMAと30M£、リヴァプール:Warriorと25M£)


マンUアディダスの契約はすごいの一言である。アーセナルにダブルスコアだぜ。
次は入場収入(Match day revenue)について。最近空席が目立っているので、この点については依然として改善が必要であろう。

入場収入は20%増加し、48M£に達したが、依然として100M£以上に達しているマンUアーセナルの半分以下。エティハド・スタジアムの平均入場者数は過去最高の47,091人を記録し、36,400枚のシーズンチケットは完売したにも関わらずである。逆に言えば、シティのシーズンチケットはプレミアリーグ最安の299£である。

シティは2015/16シーズン開幕前にエティハド・スタジアムのキャパシティを55,000人まで拡張予定であり、また61,000人までは拡大できる許可を獲得している。




話は費用面に移る。少々の錬金術が行われているパートだ。

給与・賃金は233M£から205M£まで、約12%を削減した。大きな影響を伴う削減であり、驚きを持って迎えられたーフットボール・スタッフが222人から112人にまで削減されたことについてはとくに。これは本質的にはグループ再編によるもので、彼らの給与はグループ企業が支払い、その後にシティに請求されることになる。

これは明らかに、「FFP逃れのためにあの手この手を駆使している」というシティへの批判に当てはまる、“巧妙な処理”の一例だ。彼らのコストはグループ企業内でシェアされるのだから、ネットでの(費用)削減が為されそうだが、UEFAがすんなり見逃してくれるとは考え難い。とにかく、こうしたコストのほとんどは、最終的にはシティの決算数値のどこかに入ってくるのだ。すなわち、2013/14シーズンの外部費用は17M£増加した。また、人員削減の大部分は、給与水準が低いスタッフに関わるものだったと見られる。



更に言えば、2013/14シーズンの給与額削減を説明する理由は他にもある。
(a)前年の数値には、マンチーニとそのスタッフへの違約金が含まれていた。普通は特別損失として処理する類のものだ。
(b)ソリアーノは各選手との契約を、給与をより低くし、その代わりボーナス支払いを高くするようにしている。



シティが報告した金額がどの程度“本当”かは置いといて、給与総額ではマンUがシティの上を行った。マンUの給与総額は215M£に達したのだ。(アーセナルよりはシティが約40M£ほど高く、チェルシーはまだ公表していない)。ちなみにFFPの罰則では、2015・16年の2年間、シティは給与総額を現状から増やすことができない。ボーナスは含まれていないけど・・・



なお興味深いことに、昨シーズンの削減を踏まえても、シティの給与総額は依然としてレアル・マドリーバルセロナより大きいのだ。大部分は為替レートと肖像権に対するクラブの方針によるものだが、考えさせれられる事実ではある。

グループ企業への付け替え、費目操作というのは、不正会計にならないレベルでのごまかしとしてポピュラーな話である。私も仕事柄よく見る。
まあ要するに、UEFAだってバカではないので、会計上のテクニックには限界があるということだ。気になるのは、”支店”の扱いである。
モラルを無視すれば、ランパードのような手法で給与と移籍金をオフバラしながらいくらでも大物選手が獲得できるのだが、どの程度許されるのだろうか?シティはNY、メルボルン、それに増資が行われれば横浜にも支店を持つことになったし、チェルシーフィテッセが実質的にリザーブチームとして機能しているので、手法としてはいろいろできそうだ。またヴェンゲルが怒るだろうけれど。







次に移籍市場での振る舞いと、いわゆる借金について。

2007/08シーズン以降、シティは(ネットで)5億£以上を移籍市場に突っ込んできたが、近年はその傾向にも陰りが見られる。2011/12シーズンまで、シティは合計415M£、平均して年に83M£を使ってきたが、それ以降の3シーズンは合計で128M£に過ぎず、年平均は43M£とほぼ半減している。



実際のところ、過去3シーズンに移籍市場で使った金は、マンU(231M£)とチェルシー(137M£)の方が多い。当然ながら、FFPの罰則も、移籍市場での消費を食い止めようというシティの目論見に影響を与えている。彼らはUEFAと「2014/15から2015/16シーズンの移籍市場において、移籍金の額に著しい制限を課す」ことに合意したのだ。これには2014/15シーズンの夏の移籍市場における、60M£(ネット)までの移籍金制限も含まれている。


(省略)移籍市場での活動を減らしたことは、選手の減価償却(移籍金の毎年の償却費)が減少したことに表れている。

シティはFinancial debtは抱えていないものの、101M£の偶発債務を抱えている。これは契約上定められた事項(例えば規定の試合数の出場等)によって発生する、追加的な移籍金、ロイヤリティ・ボーナス等である。

2008年の就任以来、シェイク・マンスール(オーナー)は6年間で約11億£をシティに投じてきたが、これらはすべて新規借り入れか新株発行で行われている。オーナーからの借り入れは、2009年12月に全て株式に転換された。



「Financial debtが無い」というのは、要するに「第3者に返済せねばならない負債が無い」ということだと思われる。
なぜならオーナーであるマンスール閣下が(=アブダビ・ユナイテッド・グループが)クラブに貸した金だから。ほとんど株式と一緒である(実際に転換している)。

偶発債務は、買掛金に近い。恐らく、スクリーニ(今シーズン獲得した若いアルゼンチン人)などは、何試合か出場したら規定額を移籍元のラシンに払う必要があるはずだ。
従って、先日スカパーの解説で粕谷秀樹氏が「シティは借金ありませんから」と言っていたのは正しい。





まとめ。前半はどうでもいい内容だが、後半の一文が面白い。

FFPはシティにとって最も重要な検討事項の1つである。彼らは自分たちがFFPのレギュレーションを受け入れたと思っているのだが、実際のところシティとUEFAの間には、「2010年以前に獲得した選手に対するFFPルールの適用について、根本的に意見が食い違って」いる。シティは2010年以前の選手獲得にかかった費用のうち80M£を収支計算から除外できると考えていたのだが、2011/12シーズンの赤字の原因が2010年以前の契約だけに限定できなかったため、認められなかった。取るに足らない違いではあるが、80M£分の全てを除外はできなかったということになる。
シティは試合開始後にゴールの位置が変更されたと感じただろうが、彼らは線引きをし、法廷でルールの妥当性について争うのを止めた。60M€(49M£)の罰金を課せられ、そのうち20M€(16M£)分が2013/14シーズンに計上される。

なお、興味深いことに、UEFAはシティとエティハドの契約についてはなにも言っていない。「関連当事者間取引には当たらない」と判断しているのだ。

エティハド航空の創設者はアブダビの大統領でマンスールの異母兄であるハリーファなので、「お前それ実質オーナーからの補填じゃね?」という批判はちょこちょこあった。
何をどうしたか知らないが、不問に付されたようである。


まとめ後半。


積30M€までの損失を認められているのに対し、シティは2013/14シーズンに20M€、翌シーズンに10M€までしか認められていない。ただし、実質的にはこれらの影響はほとんどないだろう。シティは2013/14シーズンの損失のうち、インフラ関係の費用と、16M£に及ぶFFPの罰金を除外できるうえ、2014/15シーズンには黒字転換が見込まれるからだ。ソリアーノは、シティが「特段の制裁措置や制限が無い状態で」2015/16シーズンを迎えられるだろうと発言している。


とはいえ実際のところは、彼らがトップクラスの選手を獲得しようとした際には、ネット移籍金の上限や給与総額がある程度制限となってくるとは思われるが。



2013/14シーズンのシティは「財政的な安定において新たなレベルに到達した」、とソリアーノは結論付けている。シティがUEFAと(FFPの)罰金額について“譲歩した”際の長々とした議論を踏まえると、シティにとって、FFPの問題はもはや方がついたと見ていいだろう。チームがピッチ上で好成績を収め続けること、とくにCLに出場し続けることを前提とする限りは。

収入の増大、費用の削減を続けながら、財政的には安定した状況に入りつつある。
「CLを逃した瞬間全てが終わる」という綱渡りでないのが、ファンとしては安心するところである。
直近で問題になるのはむしろピッチ内の方だろう。アブダビ化が始まって以降、チームの主軸はずっと固定されてきたが、そろそろ入れ替えが必要な時期だ。戦力の更新に失敗し、競争力を失った場合、せっかく構築した財務的な安定性が失われてしまう危険がある。
すでにシティの平均年齢は、欧州の主要クラブ間で最も高い。とくにタイトルの全てをもたらしてきたヤヤ・トゥレの代役については、慎重にリプレイスを行う必要があるだろう。

人件費と成績の関係についてちょろっと見てみた話


昨日Twitterでこんな表が流れてきた。



2014年のJ1・J2について、営業費用と最終的な順位の関係性をグラフにしたものだ。まず言えるのは、Jリーグは経営泣かせだね、という話。C大阪、大宮、清水が残留を争う一方で、同程度からそれ以下しか金を掛けてないG大阪鳥栖、川崎が上位に進出している。現場の工夫次第で上位進出が可能だということもできるが、この状況で営業に行く社員さんは頭が痛かろう。私が営業先の社長なら、「お金いらないじゃん、これ。ガンバみたいに工夫しなよ」と言う。間違いなく言う。






今回はイングランドプレミアリーグについて、同じように関係性を見てみた。下の表は、縦軸に「成績に対する資金効率性(勝点1当たりの選手人件費)」、横軸に順位を取ったものである。


赤い破線が「勝点1当たりの人件費」平均とすると、右上に行くほど戦力に対して効率よく勝点を稼ぎ、上位に進出したクラブ、左下に行くほど効率が悪く、順位も低かったクラブとなる。
横軸が順位なのは、いくら効率が良くても降格しては本も子も無いため。優勝を惜しくも逃したチームのファンに「でも、あなたのチーム、どこよりも少ない費用で勝点を稼いでるんですよ」と言ったところで何の慰めにもなるまい。結局のところ、効率性をどこまで問題にすべきかが知りたいのである。

(対象は09/10シーズンから13/14シーズンまでの5シーズン。選手の人件費は、主にGuardianの記事をもとにしている。)






シーズンごとのプロットを見る前に、結論を述べてしまおう。5シーズンのプロット結果からみて、各チームは以下の図のようなグループに分かれる。


「低コストで好成績」はおとぎ話


理想は今シーズンの鳥栖G大阪のように、「平均を遥かに下回るコストで勝点を稼ぎ、上位に進出する」こと(右上の破線)だが、そんな上手い話はイングランドには無い。平均以下〜平均前後の人件費/勝点では、上手くいってもEL圏内が関の山なのだ。
逆に言えば、Jリーグはバジェットに左右される部分が少ない、夢のあるリーグと言えよう。








タイトルが欲しければ、効率性には目を瞑れ


右下は人件費だけで年間1億ポンドを超える金持ちの集まり、1億ポンドクラブである。具体的にはマンチェスター・U、マンチェスター・C、チェルシーアーセナルリヴァプール。彼らのレベルになると人件費が高すぎるので、効率性はすこぶる悪い。勝点1獲得にかかる人件費は、降格するチームより多いのだ。それくらい効率性を無視して一定額を突っ込まないと、そもそも優勝やCLは争えないのである。







中堅以下の理想形、スパーズ


1億ポンドクラブの左、6〜10位に位置するのが「何してんねんクラブ」と「優等生」である。EL圏内〜トップ10の成績を収めているグループだが、前者は大分金を掛けてその成績、後者はさほど金を掛けずにこの成績。分かりやすく言えば、前者がここ5年のリヴァプールで、後者がエヴァートンである。レッズファンの人、すまんな。



その隣は人件費なりに勝点を稼いで残留に成功したグループで、いわゆるマイナークラブ。
左上に位置するのは、使うお金が無さ過ぎた人たちである。何しろ分子となる人件費が小さいので、人件費/勝点の効率性は見た目上とても良い。ただし戦力的にはリーグの平均水準から大きく離れているため、多くは降格してしまう。左下が最も救いのない人たちで、大金を投じて高額・有名な選手を揃えた割に、勝点がついてこなかった人たちである。無能な外資系オーナーが買収したクラブにおいて発生しやすい。



これらのグループで、最も成績と効率性を両立しているのはトッテナム・ホットスパーである。普段(私が)茶化してばかりだが、実際素晴らしい成績なのだ。予算規模からしたら。人件費は13/14シーズンまで1億ポンドを超えたことはないが、4位が2回、5位が1回。昨シーズンも何だかんだで6位に入った。「1億ポンドクラブ」のメンバーでない限り、CL圏内に入るチャンスすらほとんど無い状況において、最大限望みうる成績と言えるだろう。これ以上を望むかどうかは、選択の問題である。








では以下に、シーズンごとに見て行こう。まずは09/10シーズン。残念ながら降格3チームはデータが見つからなかったが、どのシーズンも下記の青い線のような分布になることは憶えておかれたし。


分かりやすい間抜けが2ついますね。シティはアブダビ資本による買収の2年目で、テベスアデバヨルコロ・トゥレと補強を重ねていたのだが、ヒューズ政権下で引き分け地獄に陥り、マンチョに挿げ替えられた年である。リヴァプールベニテス最終年。シャビ・アロンソアルベロアを売ったら大失敗したでござるの巻、である。せっかく前年に優勝間近まで迫ったのに、またしても振り出しに戻っている。
良い方で見れば、アストン・ヴィラトッテナムの効率性は素晴らしい。いずれも勝点1当たりのコストはリヴァプールやシティの半分程度で、CLとELに出場である。



次は10/11シーズン。


このシーズンの特徴は、「貧乏すぎて見かけの効率性は高いが、戦力が足りないため降格」というチームが出てきたことである。ブラックプールの勝点コスト(人件費/勝点)は今回の調査中最低の64万ポンド/勝点1。誰よりも効率は良いのだが、戦力が足りてなさすぎた。ちなみに、前述のツイートを見る限り、今期のJリーグにはそうしたチームはいなかったようである。
優勝はマンUチェルシー、シティと比べて勝点1当たり100万から150万ポンド低い人件費で優勝しているのだから立派。



11/12シーズン


やったねリバポ、仲間が増えたよ!
それは良いとして、気になるのはアストン・ヴィラの放浪である。年々グラフ内を右上から左下へ。「より貧乏に、より弱く」成り続けていることを示している。ヴィラの人件費総額は長期的には減少傾向にあるが、人件費削減のスピードよりも、競争力喪失のスピードが速いということだ。何かの拍子で、「高額選手を多数抱えて降格」という事態になりかねない。
また、トッテナムは3期連続の「優等生」である。一方で3位以上を狙うには、両マンチェスターアーセナルチェルシーのように1億ポンドを超えて人件費を突っ込む必要がありそうだ。どうする?レヴィー会長!?










レヴィー「いやあ、無理はしないよね」



ですよねー。
優勝はマンU。対象期間においてマンUの勝点効率はチェルシーやシティを常に上回っており、その状態でタイトル2つを獲得したのは素晴らしい。
これがファーギーマジックというやつである。
一方でリヴァプールは相変わらずの成績ながら、勝点1当たりの人件費は、より平均値の水準に接近。「ビッグ4の一角 ⇒ 主力の流出等により、成績が一時的に低下 ⇒ 監督・選手のリフレッシュを図るも、フロントの失策により競争力低下 ⇒ 相対的な予算規模を縮小し、出直しを図る」というプロセスを辿っていることが伺える。
QPRはもはや笑うしかない。マンチェスター・シティも一歩間違えばこうなっていたかもわからないところである。




そんな状況下で迎えた13/14シーズンはマンUリヴァプールの立場が逆転。



リヴァプールは「平均以下の人件費/勝点で2位」という偉業を成し遂げ、マンUは7位なのに勝点1当たりの人件費はリーグ1高いという「キング・オブ・何してんねんクラブ」入りを果たした。

2014/15 プレミアリーグ前半戦レビュー「それでいいのか二人旅」vol.3

■9位 スウォンジー 6勝4分6敗 勝点22 得点21 失点19
年を追うごとに従来の意地でもポゼッションスタイルが薄れてきて今年はまずいかも、と思っていたら何のことはない、普通に速攻できるメンバーが揃って速攻で点が取れるチームになっていた。
縦パス速射砲キ・ソンヨンと帰ってきたシグルズソンがガシガシ相手の隙間を狙い、特攻野郎ボニーとモンテーロが絶えず相手に挑みまくる攻撃は、嵌れば破壊力十分。ラウトリッジ、ダイアーのウィング勢もそれなりに点を取りチームに貢献している。ちなみにここまでの16試合で「中央からの攻撃率」「中央からのシュート率」はいずれもスワンズがリーグ1位。後者は実にシュートの77%が中央のゾーンからという縦志向である。(2位のアーセナルでも70%)
キ・ソンヨンとかブリットンとかシェルヴィーとか起用しているだけに守備面が強固とは言い難いが、縦志向が強いだけにボールロスト時にプレスが掛かりやすそうで、この辺りも若手指揮官モンク侮れずというところ。
エースのボニーが冬の市場で抜かれると厳しいが、そうでなければトップ10、運が良ければUEFAカップ圏内も狙えるかも。




<Pick Up>キ・ソンヨン
めちゃめちゃダイレクトで縦パス通すマン。前回のアジアカップ以来日本では蛇蝎のごとくの嫌われぶりだが、中盤センターとしては間違いなくアジア屈指の選手である。ちなみに守備は軽い。








■8位 ニューカッスル 6勝5分5敗 18得点 22失点 勝点23
首になりそうになると調子が上がるのがパーデューの真骨頂。
シーズン当初はリヴィエール、カベッラら新加入組を重宝してちょっとおしゃれ目の速攻を志向していたがさっぱり結果が出ず。
10月中盤からシソコを中心にグフラン、アミオビ弟ら「速い」か「デカい」かどっちかの選手でぐりぐり押し込むタイプのサッカーにシフトして、6連勝で一気にトップ10に浮上してきた。大体全員が「迷ったらGOだ!」のプレー選択で突っ込んでくる様はプレミアならでは。これでFWが一時期のバやシセ並みに当たるとトップ5が見えてくるんだけどなあ。
ただここのフロントは大当たりを2,3人連続で引いたと思ったらいきなりとんでもない外れを5,6人、いや7,8人は連続で連れてくるワンダーランドなので、あまり期待はできない。




<Pick Up>ダイナマイトシソコ
「1,2,3、シッソコシッソコ!」がキャッチフレーズの謎の覆面プロレスラー。プレーの判断はだいたい「身体能力で何とかする」の1択である。
先日のチェルシー戦でもカウンターから大きなストライドで持ち込んでシセの2ゴールを誘発。
サイドに置いてもボランチに置いても困るタイプの人材なので、トップ下でガンガン特攻させとくのは賢い。
ちなみにダイナマイトネタは1カ月ほど前からTwitterで呟いているのだが全く反応が無いのでそろそろ諦めようと思う。うん。








■7位 トッテナム 7勝3分6敗 勝点24 20得点 22失点
真面目に良いサッカーに取り組んで真面目に苦しんでいるのでとても面白くないです。もっと・・・もっとエキセントリックなこけ方を!
とはいえポチェティーノはセインツ時代に近い高い位置でのプレッシングから速攻を目指しているようで、最近は結果も出始めている。
敗れはしたが、フェルナンドからボールを掻っ攫ってエリクセンがフィニッシュしたシティ戦のように、少しずつ結果が出始めた。
中盤をつなぐメイソン、収まりどころとして機能するケインなど若手も育ちつつある。問題が深刻なのは守備の方で、真に頼れるDFは皆無。
ヴェルトンゲンは毎年下手になりつつあるのは気のせいだろうか。頼りにならないDFラインの背後で、少しずつロリスが心も体も狂ってきているのも見逃せない。
このまま行くと試合中に「地球はレプティリアンに支配されている」とか「人類は月に行ってない」とか言い出してしまいそうな気がする。ウーゴ、あなた疲れてるのよ。
多分今年も6位くらいでフィニッシュするんだろ。知ってる知ってる。







■6位 アーセナル 7勝5分4敗 勝点26 得点28 失点19


今年こそ!




優勝が!







狙えませんでしたー。





君らは一体何をしとるのか。プレシーズンの仕上がりは上々で、コミュニティシールドではシティに完勝。
今年こそはいけるで!と思わせたが、開幕後は格下相手に勝ち切れず、チェルシーには歯が立たず。クリスマスを前にして、早くもCL圏内確保が現実的な目標になりつつある。
原因の一つは間違いなく怪我。後ろから前線まで負傷者が続出しており、DFラインはメルテザッカー以外が全く固定できていない。
被シュート数/失点数レシオ(平均して何本打たれると失点しているか)はリーグ最悪の7.1本であり、チェルシーやシティが13~12本打たれないと失点しない計算なのに比べると、雲泥の差。
しかし怪我人が出るのは毎年の話であり、こんなもんスカッドの構成自体が優勝を狙うには不足しているだけである。チェンバーズやドゥビュシーがCBとしても有能なのはよくわかったが、控えにまともな本職用意しときなよ。
前線も頼みのジルーに負傷が長引き、新加入のサンチェス依存が激しい。また、サンチェスは間違いなく有能なのだが、一人で決めに行ける彼が主軸になったことで、かつて十八番だった流暢なパス回し、サイド〜ペナ角でのローテーションからの攻撃が下手になっているような。
先ごろようやくスタメンに戻ってきたジルーは早くも安定したポストと高さを発揮しており、彼やエジルウィルシャーウォルコットといった主軸が戻ってくれば上積みは十分なため、CL確保はさほど難しいミッションでは無いはず。
しかしスタジアム建設の負債が消えて、満を持したシーズンがこれでは、、、。来春、さすがに我らがアーセンの首も飛ぶやもしれぬ。






■5位 サウザンプトン 8勝2分6敗 勝点26 得点25 失点13

ロヴレン、チェンバーズ、ショウ、ララーナ、ランバートと後ろから前まで満遍なく主力を引っこ抜かれ、さすがにこれはまずいだろと疑っていたが、バレンシア時代に死ぬほど悪評を打ち立てたクーマンがまさかの再生に成功。ここまで5位に着けている。
最大の原動力は守備の堅さ。安心安全一家に一台スティーヴン・デイヴィスがプレスを先導し、抜けてきたボールはタックル界の神シュナイダリンと機動戦士ワニャマのコンビがことごとく回収。DFはどんだけ引き抜かれてもワニャマとシュナイダリンだけは死守したフロントは偉い。
攻撃面でもペッレがすでに7得点、タディッチもリーグ3位タイの6アシストと、ここまでは補強が良く当たっている。ごめん、オランダリーグからってことで完全に外れると思ってたわ。

シティ、アーセナルマンUの3連戦では力及ばず全敗したものの、直近のエヴァートン戦では前述のボランチコンビ不在の穴を3−5−2へのシステム変更でカバーして完勝しており、クーマンの采配も悪くない。このままCL〜EL圏内に残ることは難しいだろうが、頼れる守備力がベースにあるのは大きい。ペッレが不調に陥っても、ウザFWの模範シェイン・ロングがいれば何試合かはごまかせる。昨年と同程度の順位は十分狙えるのではなかろうか。






■4位 ウェストハム 8勝4分4敗 勝点28 得点27 失点19
我らがアラダイス大佐がロングボールの新たな境地を開拓。国際ロングボール学会英国本部はお祭り騒ぎです。
これまでダラっとした試合展開の中で局地的にスクランブルを起こすサッカーを基本としてきた大佐だが、今シーズンは潤沢な戦力、いや兵力を活かして窒息しそうな高密度の試合を展開。
サコー、バレンシアの怪人FWコンビと生まれ変わったダウニングが前線からプレスを掛けまくり、ボールを回収してはバッコバッコ放り込み。
サイドバックのクレスウェル、トップ下のダウニングと高精度のクロス砲も用意して、デカいのが一寸の迷いもなく飛び込んでくる姿は皇国ノ興廃コノ一戦ニアリという風情。各員一層奮励努力しすぎ。クリシ、泣いてたよ?
プレスをはがされたあとの中盤の守備は割とアバウトだったりもするのだが、そこはクヤテ工兵長と歴戦の傭兵ソングが強襲。
DFラインもリード、トムキンズらポテンシャルはあるんだけどねえ、、、というレベルだった面子が成長しており、何十年ぶりかというフィーバーが続いている。これでノーラン軍曹が控えだっつうんだから、厚くなったよね、選手層。
とは言えこのサッカーがいつまでも維持できるかはフィットネスとの相談であり、苦しくなったときに前線がどこまで引っ張れるか。
ようやく戻ってきた6休1勤キャロルに期待したいところだが、すぐ引きこもるからなー。




<Pick Up>ディアフラ・サコ
訳のわからんジャンプ力と雑なフィニッシュを引っ提げてプレミアに殴りこみ、10月の最優秀選手賞まで取ってしまったセネガルの怪人。
シティ戦では相手のフォローの遅さに漬け込み、ひたすら右サイドに流れて空中戦でクリシをボコりまくった。おかげでシティファンの間では「クリシよりユースの子の方がましじゃない?」という噂まで立っちゃったんですけど。






■3位 マンチェスター・ユナイテッド 9勝4分3敗 勝点31 29得点 17失点



有り余る資金力を前線につぎ込み、RvPルーニーファルカオ、マタ、ディマリアの前線と学徒動員のスカスカDFラインという最高にアンバランスな編成でシーズンを迎えたが、ここまではアーセナルリヴァプールのコケ芸にも助けられ3位。上出来と言っても良いのではなかろうか。
主力が片っ端から怪我に倒れてブラケットとかマクネアとか誰だお前レベルの若手を抜擢せざるを得なかったDFラインは相変わらず怪しい雰囲気が漂うものの、レスターに5点ぶち込まれて負けて以降はシティに敗れたのみ。
ルーニーキャリックがチームのバランスを辛うじて支えつつ、前線の超人が安定して点を取るので収支はプラス。
来年以降はDFと中盤にも資金投入が為されると思われるので、タイトル戦線への復帰は近そうである。
しかしファンハールって頭おかしいよなあ。こないだ見たら、キャリックが3バックの真ん中で、ルーニーフェライニがダブルボランチしてたぜ。








■2位 マンチェスター・シティ 11勝3分2敗 勝点36 33得点 失点14



主力のコンディション不良と2トップ大好きおじさんのこだわりで守備はスカスカ、どんな相手にも決定的チャンスを2,3作られるのがデフォルトな低空飛行ながら、何とかかんとか2位。すでにチェルシーとマッチレースの様相を呈しており、これでいいのかこの二人旅。
前半戦はやっぱりやる気をなくしていたヤヤ・トゥレを筆頭に主力の状態が心身ともに整わず、ボールを奪う仕組みも昨季から相変わらず整備されていないため、ひたすらアグエロ打線の爆発とミルナー先生メガ進化で耐える日々が続いた。
CLでも4試合終えて勝点わずか2とシャレにならない間抜けっぷりを見せており、今シーズンは残りボヤタの出場機会を数えて過ごすことになるかと怯えていたが、バイエルン戦で幸運にも逆転勝利した辺りからパフォーマンスが安定し始め、まさかの8連勝。同時にFW不足もあって4-2-3-1にシフトしてから目に見えて中盤のスペースが埋められるようになり、あへあへ2トップおじさんもようやく学んだのかと感慨ひとしおである。
とはいえ守備の完成度ではチェルシーに遠く及ばないことには変わりなく、ここから着いていくにはビッグゲームでの傭兵転換(具体的にはヤヤトゥレの控え化)と、アグエロの一刻も早い復帰が不可欠。
昨年はビッグゲームで悉く負けたにも拘らずリヴァプールチェルシーのずっこけによって幸運にも手にしたタイトルであり、今年はその辺りから学んだことを見せてほしいものである。




<Pick Up>ジェイムズ・ミルナー
開幕前は「もっと試合に出たいので移籍するかも」とさんざゴネたが、開幕してみるとミルナー史上最高のパフォーマンスでチームをけん引。
いまやマンチェスター・イブニング(地元紙)のコメント欄での人気はサバレタに次ぐほどである。チームで唯一と言っても良い斜めの裏抜け&守備へのダッシュを繰り返せる選手であり、シルバやナスリとの相性は抜群。
たぶんイングランド代表でそんなに輝かないのは、こいつが走ってもそのスペースを使う選手がいないからだと思う。
相変わらずツイートも冴えまくっており、ピッチ内外で評価をかつてないほど高めているそんなミルナー先生早く契約延長しよ?





<Pick Up>デドリク・ボヤタ
シーズン開幕前には「神よ、なぜあなたは水をワインに変えられたのに、ボヤタをまともなDFに変えないのですか」と弄られていた男が、コンパニ様の怪我とマンガラの出場停止で突然のスタメン。大方の予想を裏切って無難に90分をこなし、ボヤタの民ボヤタリを歓喜させた。なおその後は当然出場無しである。









■1位 チェルシー 12勝3分1敗 勝点39 得点36 失点13



昨シーズン、下位チーム相手に意外な甘さを露呈してタイトルを逃したジョゼと愉快な仲間たちが、めちゃめちゃ容赦ない姿で帰ってきてしまった。
ジエゴ・コスタ、セスクという大型補強がこれ以上ないほど当たり、アザールロナウド、メッシに次ぐレベルの超人に進化。昨シーズンの得点力不足はどこへやら、得点数は無く子も黙るリーグ1位である。
守備でもダヴィド・ルイスの穴は無く、ていうかむしろ抜けて良かったんじゃないかみたいな可愛げのなさ。ニアのクロス全部跳ね返すもん。こいつら嫌い。
昨シーズンはハッピーワンとか抜かしていたジョゼもいつもの憎たらしさを取り戻しつつあり、ニューカッスルに負けた試合でも薄笑いで終了の笛を聞くという。
最近ではうっすら化粧してるようにすら見えてきて、そのうち機械の身体になってフォースでヴェンゲルを吹き飛ばしそう。
不安要素は主力固定のツケがそろそろ出始めた(主にケイヒル方面)くらいだが、ドログバ、レミ、ズマら控えもこれまで十分な仕事をしており、多分乗り切り可能。
タイトル争いの最有力であることは揺るがないと思われる。




<Pick Up>ネマニャ・マティッチ
軽トラ並みのフィジカルと元トップ下ならではのテクニックで中盤を支配する反則クラッシャー。
しかもそこそこ動けると来ている。昔はなんか野暮ったい棒っきれだったのに、こんなのに進化するとは、ポルトガル牧場の効果すごい。

2014/15 プレミアリーグ前半戦レビュー「それでいいのか二人旅」vol.2

■14位 WBA 4勝5分7敗 勝点17 得点15  失点20
点は取られないが取れもしない、という予想通りの寸詰まりサッカーを展開中。失点20はアーセナルとほぼ変わらないレベルだが、得点15もワースト4位タイである。
中盤を削り屋ジャコブとサッカーをするゴリラ・ムルンブの獄卒コンビではなく、ドランズ、ブラント、モリソン、ガードナーの“何やってもそこそこカルテット”に変えても失点が少ないのは立派だが、一番攻撃が強そうな面子でこんだけ点が取れてないのはきつい。
FWも案の定イディエ・ブラウンが悪いナイジェリア人であることが発覚し、サマラスは相変わらずパルテノンの沈没船。21歳のベラヒーノに得点の大半を依存する崖っぷち構造で、今季就任したアーヴァインには早くも解任の噂も出始めた。とは言えこれまでチームを支えてきたマコーリー、オルソンから若いドーソン、ウィズダムにスイッチしつつ、失点を抑えているのは立派。ここまで良い成績とは言えないが、予想をはるかに下回るというわけでもない。どうせまともなFWいないんだから、今シーズンは残留で御の字なのではなかろうか。




<Pick Up>ジョリオン・レスコット
別にプレーはどうでもいいんだけど、試合を見ていたWBAファンの人が「レスコットルーレット!!」とつぶやいていたのが脳裏から消えない。
その試合は不幸にして観戦してないが、いったい何が起こってしまったというのか。いや、別に見たくはない。






■13位 アストン・ヴィラ 5勝4分7敗 勝点19 得点10 失点20
ロートル中心の補強でプレシーズンは不安を煽ったが、出だしは順調。ロイ・キーン仕込みのハイプレスが機能し、一時は2位まで浮上した。
が、アーセナル戦で「一定以上の相手には通用しない」「一旦つながれるとライン裏のリスク、とくにセンデロスの場所がまずい」「攻撃の仕組みと一体化されたレベルでの戦術では無く、攻め手がほぼ皆無」という数々の弱点が露呈。
破竹の6連敗に3引き分けで一気にボトム10まで落ち込んでしまった。更に、ロイ・キーンが選手と対立して辞任。
2カ月価値なし得点なしでは雰囲気が悪くなるのも致し方なかろうとは思うが、それにしても「テメエ舐めんのもいい加減にしとけよコラ」とロイ・キーンに言い放ったファビアン・デルフは男である。ほんとどこ行っても成功しないよな、あの髭。





■12位 ストーク 5勝4分7敗 勝点19 得点18 失点21
どっからどう見てもラーメン屋のおやじである。バンダナ巻いてるし、腕まくってるし、後ろからでも豚骨の匂いしてるし。
でもおやじは頑なに「パスタ」って言ってる。「俺はパスタ作るから」って。確かに香草とか買ってきてるけど、大事なのはそこじゃないっていうか。

というかつての豚骨ロングボールからオサレ地上戦パスタへの転換を図っているはずだったのだが、ビッグクラブ相手には普通に豚骨出してきた。聞いてねえよ。
そんな感じでシティ、トッテナムアーセナルに勝利しつつ、レスターやサンダーランドに負けたりと今一つ安定しないシーズンを送っている。
ボージャンを筆頭に攻撃の駒は充実したが、その分守備も脆弱化。ファンの方曰くカウンターでやられるパターンが増えているそうな。
確かになあ。ボールロスト多い割にネガトラ苦手そうなメンバー多いもんな。エンゾンジが中盤の中心になってるけど、あれ脇でフラフラさせて何ぼだもんな。
とはいえ貧乏人のジェラードことシドウェル、メリケン砕氷船キャメロン等守れるメンバーもいるわけで、中堅どころの中では選手層は決して薄くない。
トップ10でのフィニッシュも可能だろう。



<Pick Up>マメ・ビラム・ディウフ
そりゃマンUでは通用しないわなという雑なプレーと、シティを1人で沈めたスーパーゴールの両面を併せ持つ評価に困るストライカー。
勝ち試合でボールキープを試みたところ、後ろからあっさりボールをかっさらわれて何かに激怒という愛らしさはプレミア屈指。





■11位 リヴァプール 6勝3分7敗 勝点21 得点19 失点22
今年もやってしまったキング・オブ・コケ芸。
ゴールマシン・スアレスの抜けたFWにバロテッリランバートを補強し、その他はララーナ、ジャン、マルコヴィッチ、ロヴレン、マンキージョといった期待の若手を補強するという戦略がものの見事に外れ、得点パターンがさっぱり見えないチームに変わってしまった。昨シーズンあれだけ猛威をふるったカウンターも、スターリングのスピードで何か起きればラッキーという雑な状態に。GKミニョレは不調続きでド下手クソな第2GKブラッド・ジョーンズとすげ替えられ、DFラインもロヴレンが「2,000万ポンドって日本円で200万くらいだったっけ?」と思わせる1人デノミネーションを敢行。全ポジションで問題が相次ぎ、11月は怒涛の4連敗を飾ってしまった。突破口はさっぱり見えないが、強いて言えば1月中旬に予定されているスタリッジの復帰。とりあえず3バックは止めて、スタリッジスターリング、コウチーニョ並べとくのが一番傷口浅くすむんじゃないかと思います。






■10位 エヴァートン 5勝6分5敗 勝点21 27得点 24失点
守備が大絶賛崩壊中。失点27はワースト3位タイである。
とはいえモイーズ時代もいつもシーズン前半は低空飛行し、後半にアホみたいに巻き返すのが定番だったので、さほど違和感がある順位では無い。
守備面ではベテランに勤続疲労が出てきたが、GKハワード、CBディスタン、ジャギエルカの代役はなかなか見つからない。とりあえず今シーズンは粘り強くストーンズを試す期間になりそう。
攻撃面ではルカクをSBに流れさせるパターンがいよいよ読まれ出しており、前半戦ほぼ不在だったバークリーがいないと中央から崩せなくなってきている。
先日のシティ戦でも中央にスペースはそこそこあったのだが、エトオネイスミスでは宝も持ち腐れっていうか、本職じゃなさ過ぎてどうにも感。
巻き返しのためにはけが人の復帰は不可欠。あとELは早めに撤退しておきたい。別に勝ったって大した金でねえぞ。あと来年バークリー売ってくれ。





続く。