シティの財政状況について
(This post cites the article from The Swiss Ramble: Manchester City - Roll With It)
サッカークラブの財政についていつも参考になる記事をアップしてくれるThe Swiss Rambleが、シティについての記事を掲載していたので、一部翻訳してみた。
題名は「Roll with it」。明らかにoasisの名曲からのインスパイアだが、要するにシティの財政は好調だということである。
長いよ!と言う人は赤文字のところだけ読んどけ。
ではまずは収支状況の概観から。
2013/14シーズン、マンチェスター・シティはここ3年で2回目のリーグ優勝を果たした。また、キャピタルワンカップの優勝により、この4シーズンで国内の全主要タイトルを最低でも1回は獲得したことになる。
ピッチ外の戦略も着々と実行されつつある。
・総収入は271M£から347M£に増加
・内訳としては、放映権収入が51%、入場収入が20%、コマーシャル収入が16%それぞれ増加
・3年連続で損失額が減少
損失額は前シーズンの52M£から半分以下の23M£まで削減された。というか、FFPの罰則金16M£が無ければほとんど損益トントンだったのだ。2014/15シーズンは利益が出る見込みである。
損失の削減(29M£)はプラス効果として
・プレミアリーグの新契約による放映権収入増大(+39M£)
・スポンサー料増加(+23M£)
・給与の削減(+23M£)があった一方で、マイナスとして・FFPの罰則金(▲16M£)、
・“知的財産”の売却収入が無くなったこと(▲46M£)の相殺の結果である。
特筆すべき2点について触れておこう。(a)EBITDAはほぼ2倍の75M£に増加した。(b)2014年の決算値は、選手売却部分の利益を実質的に含めていない。つまり、この点からの利益増加が見込めるのだ。
2012/13の決算値は「その他営業収入」48M£によって下駄を履かされたものだった。これは知的財産の売却(22.5M£が支店クラブへ、24.5M£がサードパーティへ)によるものだ。2013/14シーズンの数値には、もはやこの部分が含まれていない。
EBITDAというのは営業キャッシュフローに近い概念なので、要するにPL上損失が出ていても、商売としてはキャッシュを生んでいるということ。
また「支店クラブへの知的財産の売却」(”the sale of intellectual property (£22.5 million to subsidiaries”)というのは、NYシティ、メルボルンシティのことである。支店に「ノウハウ」とか何とか称して売りつけることで売上が入るのだ。ナイス錬金術!。マリノスも基本的にはこの文脈でグループに加えられている。
損失額の推移
最後にシティが利益を計上したのは2006年に遡る(10M£)。それ以来シティは合計で628M£もの損失を計上してきたが、それでも2011年以降損失額は毎年半減のペースで削減され続けている。
欧州サッカーの最高レベルで戦うのに必要な選手層と施設を揃えるための重点投資期間を経て、シティは確信を持って、将来的な利益を見込めるようになった。チェアマンのハルドゥーン・アル=ムバラクが「今日、我々は6年前に到達したいと思っていた場所にいる」と認めたように、オーナーたちの“マスタープラン”は堅調に進みつつあるのだ。
次に、収入の状況についての概観。下のグラフは収入の推移だ。
2009年以降、シティの営業収入は87M£から347M£まで、約300%増加した。主な要因は商業収入(スポンサー料やユニフォーム等)の増加で、なんと821%も増えている(18M£から166M£に)。放映権収入は48M£から133M£に、入場収入は21M£から47M£にそれぞれ増加した。
昨シーズンだけでも、収入は271M£から347M£に、+76M£も拡大した。これはイングランドのトップ4(マンU、チェルシー、アーセナル)の中でも最高のパフォーマンスだ。
また、シティは収入の48%を商業収入が占めているが、これはイングランドのクラブで最も高い比率である。マンUは44%で、アーセナルに至っては26%だ。シティの収入のうち、放映権収入は38%で、入場収入は14%に過ぎない。
シティの営業収入規模はイングランドでマンUに次ぐ2番目。マンUの433M£には約100M£ほど劣るが、チェルシー、アーセナルには勝っている。欧州全体で見ると、2012/13シーズンは6位。悪くない業績ではあるが、スペインの巨人たちにはまだまだ遠い。
収入の内訳についてだが、放映権料は大した話では無いので割愛。CL出れて良かったねということである。
商業収入(Commercial revenue)については以下の通り。
商業収入は2013/14シーズンに16%増加し、166M£に到達した。大半はクラブの所有権があるアブダビに関連するものだが、パートナーの数は133%増加し、35に達した。(UKとグローバルが25、その他の各地域が10)
チーフ・エグゼクティブのフェラン・ソリアーノは「UK、アメリカ、オーストラリア、日本にクラブを有するシティフットボールグループの設立によって、我々の商業機会は拡大され、すでに日産、エティハド、ヘイズとのグローバルパートナーシップが始まっています」と述べている。しかし、アディダス、アリアンツ、アウディといった極上クラスのスポンサーとのおいしい契約で商業収入を233M£まで増やしたバイエルンや、カタール観光局との200M€もの契約を結んだPSGには大きく劣っているのが現状である。
シティのコマーシャル契約のうち最大なのがエティハド航空で、期間は10年以上、金額にして400M£に及び、ユニフォームの胸、スタジアムの名称をカバーする。シーズン単位でのユニフォームのスポンサーシップ規模で言えば、シティはマンU(シヴォレー、47M£)、アーセナル(エミレーツ、30M£)に次いでリーグ3位(20M£)だ。プレスの予測では、エティハドのスポンサー契約はさらに5年延長され、320M£をもたらす見込みである。現行契約はすでに3年が経過しているため、新契約は毎年のスポンサー料を50M£増加させることになるだろう。
さらに、シティは新たに3つのパートナーと80M£に及ぶ5年契約を結ぶと見られている。この契約はリザーブチームとアカデミー用に使われる7,000人収容のスタジアムを含む、新しいトレーニング施設群をスポンサードするものだ。
NIKEとのキット・サプライヤー契約(6年間、毎年12M£)はそれまでのアンブロとの契約の2倍以上だが、それでも改善の余地がある。他のクラブの最近の契約と比べると、明確に劣っているためだ。(マンU:Adidasと75M£、アーセナル:PUMAと30M£、リヴァプール:Warriorと25M£)
マンUとアディダスの契約はすごいの一言である。アーセナルにダブルスコアだぜ。
次は入場収入(Match day revenue)について。最近空席が目立っているので、この点については依然として改善が必要であろう。
入場収入は20%増加し、48M£に達したが、依然として100M£以上に達しているマンUとアーセナルの半分以下。エティハド・スタジアムの平均入場者数は過去最高の47,091人を記録し、36,400枚のシーズンチケットは完売したにも関わらずである。逆に言えば、シティのシーズンチケットはプレミアリーグ最安の299£である。
シティは2015/16シーズン開幕前にエティハド・スタジアムのキャパシティを55,000人まで拡張予定であり、また61,000人までは拡大できる許可を獲得している。
話は費用面に移る。少々の錬金術が行われているパートだ。
給与・賃金は233M£から205M£まで、約12%を削減した。大きな影響を伴う削減であり、驚きを持って迎えられたーフットボール・スタッフが222人から112人にまで削減されたことについてはとくに。これは本質的にはグループ再編によるもので、彼らの給与はグループ企業が支払い、その後にシティに請求されることになる。
これは明らかに、「FFP逃れのためにあの手この手を駆使している」というシティへの批判に当てはまる、“巧妙な処理”の一例だ。彼らのコストはグループ企業内でシェアされるのだから、ネットでの(費用)削減が為されそうだが、UEFAがすんなり見逃してくれるとは考え難い。とにかく、こうしたコストのほとんどは、最終的にはシティの決算数値のどこかに入ってくるのだ。すなわち、2013/14シーズンの外部費用は17M£増加した。また、人員削減の大部分は、給与水準が低いスタッフに関わるものだったと見られる。
更に言えば、2013/14シーズンの給与額削減を説明する理由は他にもある。
(a)前年の数値には、マンチーニとそのスタッフへの違約金が含まれていた。普通は特別損失として処理する類のものだ。
(b)ソリアーノは各選手との契約を、給与をより低くし、その代わりボーナス支払いを高くするようにしている。
シティが報告した金額がどの程度“本当”かは置いといて、給与総額ではマンUがシティの上を行った。マンUの給与総額は215M£に達したのだ。(アーセナルよりはシティが約40M£ほど高く、チェルシーはまだ公表していない)。ちなみにFFPの罰則では、2015・16年の2年間、シティは給与総額を現状から増やすことができない。ボーナスは含まれていないけど・・・
なお興味深いことに、昨シーズンの削減を踏まえても、シティの給与総額は依然としてレアル・マドリーやバルセロナより大きいのだ。大部分は為替レートと肖像権に対するクラブの方針によるものだが、考えさせれられる事実ではある。
グループ企業への付け替え、費目操作というのは、不正会計にならないレベルでのごまかしとしてポピュラーな話である。私も仕事柄よく見る。
まあ要するに、UEFAだってバカではないので、会計上のテクニックには限界があるということだ。気になるのは、”支店”の扱いである。
モラルを無視すれば、ランパードのような手法で給与と移籍金をオフバラしながらいくらでも大物選手が獲得できるのだが、どの程度許されるのだろうか?シティはNY、メルボルン、それに増資が行われれば横浜にも支店を持つことになったし、チェルシーもフィテッセが実質的にリザーブチームとして機能しているので、手法としてはいろいろできそうだ。またヴェンゲルが怒るだろうけれど。
次に移籍市場での振る舞いと、いわゆる借金について。
2007/08シーズン以降、シティは(ネットで)5億£以上を移籍市場に突っ込んできたが、近年はその傾向にも陰りが見られる。2011/12シーズンまで、シティは合計415M£、平均して年に83M£を使ってきたが、それ以降の3シーズンは合計で128M£に過ぎず、年平均は43M£とほぼ半減している。
実際のところ、過去3シーズンに移籍市場で使った金は、マンU(231M£)とチェルシー(137M£)の方が多い。当然ながら、FFPの罰則も、移籍市場での消費を食い止めようというシティの目論見に影響を与えている。彼らはUEFAと「2014/15から2015/16シーズンの移籍市場において、移籍金の額に著しい制限を課す」ことに合意したのだ。これには2014/15シーズンの夏の移籍市場における、60M£(ネット)までの移籍金制限も含まれている。
(省略)移籍市場での活動を減らしたことは、選手の減価償却(移籍金の毎年の償却費)が減少したことに表れている。
シティはFinancial debtは抱えていないものの、101M£の偶発債務を抱えている。これは契約上定められた事項(例えば規定の試合数の出場等)によって発生する、追加的な移籍金、ロイヤリティ・ボーナス等である。
2008年の就任以来、シェイク・マンスール(オーナー)は6年間で約11億£をシティに投じてきたが、これらはすべて新規借り入れか新株発行で行われている。オーナーからの借り入れは、2009年12月に全て株式に転換された。
「Financial debtが無い」というのは、要するに「第3者に返済せねばならない負債が無い」ということだと思われる。
なぜならオーナーであるマンスール閣下が(=アブダビ・ユナイテッド・グループが)クラブに貸した金だから。ほとんど株式と一緒である(実際に転換している)。
偶発債務は、買掛金に近い。恐らく、スクリーニ(今シーズン獲得した若いアルゼンチン人)などは、何試合か出場したら規定額を移籍元のラシンに払う必要があるはずだ。
従って、先日スカパーの解説で粕谷秀樹氏が「シティは借金ありませんから」と言っていたのは正しい。
まとめ。前半はどうでもいい内容だが、後半の一文が面白い。
FFPはシティにとって最も重要な検討事項の1つである。彼らは自分たちがFFPのレギュレーションを受け入れたと思っているのだが、実際のところシティとUEFAの間には、「2010年以前に獲得した選手に対するFFPルールの適用について、根本的に意見が食い違って」いる。シティは2010年以前の選手獲得にかかった費用のうち80M£を収支計算から除外できると考えていたのだが、2011/12シーズンの赤字の原因が2010年以前の契約だけに限定できなかったため、認められなかった。取るに足らない違いではあるが、80M£分の全てを除外はできなかったということになる。
シティは試合開始後にゴールの位置が変更されたと感じただろうが、彼らは線引きをし、法廷でルールの妥当性について争うのを止めた。60M€(49M£)の罰金を課せられ、そのうち20M€(16M£)分が2013/14シーズンに計上される。なお、興味深いことに、UEFAはシティとエティハドの契約についてはなにも言っていない。「関連当事者間取引には当たらない」と判断しているのだ。
エティハド航空の創設者はアブダビの大統領でマンスールの異母兄であるハリーファなので、「お前それ実質オーナーからの補填じゃね?」という批判はちょこちょこあった。
何をどうしたか知らないが、不問に付されたようである。
まとめ後半。
積30M€までの損失を認められているのに対し、シティは2013/14シーズンに20M€、翌シーズンに10M€までしか認められていない。ただし、実質的にはこれらの影響はほとんどないだろう。シティは2013/14シーズンの損失のうち、インフラ関係の費用と、16M£に及ぶFFPの罰金を除外できるうえ、2014/15シーズンには黒字転換が見込まれるからだ。ソリアーノは、シティが「特段の制裁措置や制限が無い状態で」2015/16シーズンを迎えられるだろうと発言している。
とはいえ実際のところは、彼らがトップクラスの選手を獲得しようとした際には、ネット移籍金の上限や給与総額がある程度制限となってくるとは思われるが。
2013/14シーズンのシティは「財政的な安定において新たなレベルに到達した」、とソリアーノは結論付けている。シティがUEFAと(FFPの)罰金額について“譲歩した”際の長々とした議論を踏まえると、シティにとって、FFPの問題はもはや方がついたと見ていいだろう。チームがピッチ上で好成績を収め続けること、とくにCLに出場し続けることを前提とする限りは。
収入の増大、費用の削減を続けながら、財政的には安定した状況に入りつつある。
「CLを逃した瞬間全てが終わる」という綱渡りでないのが、ファンとしては安心するところである。
直近で問題になるのはむしろピッチ内の方だろう。アブダビ化が始まって以降、チームの主軸はずっと固定されてきたが、そろそろ入れ替えが必要な時期だ。戦力の更新に失敗し、競争力を失った場合、せっかく構築した財務的な安定性が失われてしまう危険がある。
すでにシティの平均年齢は、欧州の主要クラブ間で最も高い。とくにタイトルの全てをもたらしてきたヤヤ・トゥレの代役については、慎重にリプレイスを行う必要があるだろう。