移転しました
http://wegottadigitupsomehow.hatenablog.com/
使いづらいので移転しました。2番の歌詞になりました。
妖怪若手ウォッチ
若手。それは甘美な響きである。
若手主体のチームと聞くと、なんとなく溌剌としたヤングガンズがロートルどもを走力で圧倒している絵が浮かぶ。
何より無限の可能性が広がっている気がする。10代にしてこれだけの能力を見せているのだから、試合に起用し続ければ5年後、10年後には飛躍的な成長を遂げているのではないか。5年後にはトップチームのスタメンの大半を自前育成の若いスターが占めているのではないか。そんな期待を抱かせる。
あるいは一種のドリームチーム感。とくに世代別代表にはそういう良さがある。名古屋の本田、ガンバの家長、千葉の水野。そしてFC東京の最高傑作、梶山。なんだかものすごいものが生まれそうな気がする。
別に最高傑作だろうがどうだろうが、「○○ユースの最高傑作」って言ってみたくならないだろうか。
そういうわけで、かつては私も若手選手の成長に心躍らせる1人の純粋な少年だったわけである。シティで言えば、1986〜1989年辺りの世代だろう。1986年生まれには天才ゲームメーカーのアイルランドと、快足オヌオハ、それにGKシュマイケル。1987年にはサイズとスピードを兼ね備えたイシュメイル・ミラー。1988年には「ジェラード2世」と呼ばれたジョンソンと、18歳で代表にデビューしたリチャーズ、点が取れるウィングのエトゥフ。あとエヴァンズ。そして1989年にはスロヴァキアの俊映ヴァイスと、無く子も黙るスタリッジである。ちょうどシティが(突然)資金力を持ち始めた頃だったので、2007年辺りの私は浮かれに浮かれていた。彼らがこのまま成長していけば、まさしく「ジダネス&パボネス」が図らずもシティで実現してしまうのではないかと。
だが人はいつか気づくのである。意外と若手って伸びないと。
伸びないというのが言いすぎなら、こだわるのが合理的でないと言っても良い。レスコットが、バリーが、デ・ヨングが、ベラミーが、来るたびに私は思ったものである。「なぜ!?もう少し我慢して若手を使ってみても良いじゃないか!?」と。が、実際来てみると、往々にして実力の差は明らかなのだよな。
私は相当にマイケル・ジョンソンのことが好きだったが、悲しいかな何年こねくり回しても、彼がダビド・シルバはおろか、ナスリやフェルナンジーニョの域に達することはむずかしかったろう。100%無理とは言いたくないが。
若手を育てることの効能として、「主力に成長すれば£20mから£30mの節約になる」と言うが、育てる期間というのは言わば勝点を若手の出場機会に換えているわけであるから、その分の失った収益機会も込みで考える必要がある。
それでも様々な理由で若手は育てていかねばならないのだから、現場の苦労は如何ほどかと思われる。そうでもなけりゃ、若手起用してればいいもんね。基本的にファンは喜ぶし。
そもそも、育成年代のコンペティションというのは基本的にトップの2部よりレベルが低い。2部にいるのはそうした育成年代を勝ち残ってきた選手と外国人なのだから当然である。
だから、育成年代で多少パフォーマンスが良かったとしても、それがプレミア、とくにシティのような優勝を争う水準で戦力になる保証にはならないのだ。
かくして私はシニカルにというか、過大な期待を抱かないようになったわけだが、それはそれとして、一周回ってやっぱり若手をコレクションするのは楽しいのも事実である。
自前の子供が試合に出ると言うのは、やっぱり無条件に嬉しいものだ。
ということで前置きが長かったが、今回はシティの育成年代、あるいはレンタルに出ている若手のうち、有望そうなやつを何人か見てみることとしたい。
ちなみに各選手の欄の最後についてる四角は、関連する動画や記事など。シティは定期的に若手選手の15分くらいの特番をYoutubeで作ってくれるので、本人が自分の名前を発音するところなど、割と貴重なシーンが楽しめる。
ちなみにシティの若手関連ニュースを知りたいときに参考になるのが、以下のリンク。
InEsteemedKompany(以下IEK)は、現地のスティーヴン某が熱心にU18やEDS(U21)世代の情報を発信してくれるブログである。評価は相当甘めな気がするが、それはまあご愛敬か。
@ManCityYouthは日本語で育成年代の情報を発信してくれるありがたいアカウント。レンタル先の試合結果も熱心に追ってくれており、シーズン前には選手名鑑もつぶやいてくれる。フォローしていると、大体のことはわかる。
GK
■アンガス・ガン Angus Gunn イングランドU21代表 1996.1.22
父ブライアンはノリッジ黄金期の正GKで、UEFAカップでバイエルンを下す大番狂わせの際も出場していたサラブレッド。私も歴史としてしか知らんが。
息子のアンガスも19歳にしてU21代表に飛び級召集されており、評価は高い模様。ちなみに身長は196cmもある。IEKも「ハートっぽいけどハートより足下は上じゃけえ」とのこと。ほんとか。
今シーズンはU21で正GKのようだが、気になるのは今後の出場機会だろう。ハートはちょうど競争相手が1歳上のシュマイケルだったこともあり、20歳の頃からスタメンを張っていたが、当のハート相手にガンが同じことをやるのは相当難しい。正直、今年で29歳のハートがあと2,3年は少なくともトップレベルでやれるであろうことを考えると、超長期的なローンに出せないものかと思う。いや、ハートと競争させても良いが、相当難しかろう。
ハートがレギュラー、控えに(一応は)実力者のベテラン、カバジェロで、3番手はほとんど選手としては上がっちゃったライト、というのはなかなか理想的な面子なのだ。なのでこの先の人事異動は難しいところ。GKの場合、第2で置いといてもほとんど意味無いしね。
CB
■トーシン・アダラバイヨ Tosin Adarabioyo イングランドU19代表 1997.9.24
「Adarabioyo」で「アダラバイヨ」。へえー。やっぱり英語が一番読みを類推するの大変だよ。(シティに限らず、最近のビッグクラブは専用YouTubeチャンネルで検索すればすぐに実況付きの動画が出てくるので、わりと読み方が判明しやすいのではあるが)
今期は相次ぐ怪我人の影響で、CLユーベ戦にてベンチ入り。昨年秋の日本代表U-19戦にも召集された。
下の動画では攻め上がって点を決めているが、足下には自信がありそうで、リオ・ファーディナンドみたいになったりしないかと期待している。リオも、あれはあれでイメージより相当組み立ては下手だったが。
とは言えまだ18歳で写真を見てもガリガリなので、戦力化は相当先になると思われる。あと、写真を見る限り思いっきりパター型で蹴っているので、多分、組み立ては今のところ下手。
■キャメロン・ハンフリーズ Cameron Humphreys 元イングランドU17代表 1998.8.22
今夏のプレシーズンマッチでレアル・マドリー相手に駆り出され、ぼこぼこにされるというレッスンを受けた17歳。地元マンチェスター出身で、14歳のときにU17代表に呼ばれたらしい。とはいえWikipediaを見ると最近の年代別代表には呼ばれていないみたいだが。
関係無いが、ハンフリーズというとハートリプールでキャプテンをやっていたリッチー・ハンフリーズを思い出すね。まだ現役なんだ、リッチー。
昨年のFAユースカップ決勝ではアダラバイヨとともにCBを務めており、8月のプロ契約の前にはまんゆ、エヴァートン、ニューカッスルからオファーもあったとのことで、評価は高そうだ。ま、まだ海のものとも山のものとも、という感じではあるが。
■マティアス・ボサールツ Matthias Bossaerts ベルギー 1996.7.10
やけに日本語の情報がたくさん出てくるイケメンの19歳。本職はCBだが、2014年夏のプレシーズンマッチでは右サイドバックとして1stチームの試合に駆り出され、そこそこ無難なプレーを見せていた。
ぶっちゃけ選手としては最近試合にも出ていないようで、今後シティでの未来があるかは相当怪しいところだが、彼の真価はそこではない。
我らがThe Sunによればこのどセクシーな女がまんゆのフェライニをフってボサールツと付き合い始めたとのことで、トップチームより先に今シーズン最初のダービー勝利を飾ったとか、飾らないとか。とりあえず歴史には名を残した。
SB
■パブロ・マフェオ Pablo Maffeo 元スペインU16代表 1997.7.12
エスパニョールから引き抜いてきた右サイドバック。身長が172cmしかないが、去年の育成チームではCBを担当していたらしい。もう、IEKのスティーヴン氏激賞。こんなに守備が良いサイドバックは観たことが無い、とか言っちゃうほど。守備専門なわけではなく、攻め上がってもボール持っても良し、とか。
今シーズンは夏のツアーに帯同するも怪我で出番なし、トップチームでベンチ入りするも出番なし、とやや不運だったが、ちょうど1月13日にジローナ(シティが提携しているスペイン2部)へのローンが決定した。
まあ、トップチームがサバレタとサニャというリーグ屈指のおっさん2人なので出場機会を得るのは難しいところだが、年食ってるのも事実なのでチャンスは掴んでほしいところである。ちなみにサバレタには懐いているようで、「父親みたい」とのこと。
■アンヘリーニョ José Ángel Esmorís Tasende “Angeliño” 元スペインU17代表 1997.1.4
英語圏ではアンジェリーノ。生まれはガリシアで、シティに来る前はデポルティボにいた左サイドバック。育ち過ぎたティーンアイドルというか、『Little Brittain』のキャラクターみたいだが、少し前までEDSチームの監督だったヴィエラが「一緒に働いた中で最高の若手選手だ。人間性も、選手としての能力も大好きだよ」と言っちゃうほどの逸材だそうだよ。まあ、ヴィエラが育成の仕事したのは2年半くらいだが。とはいえあのヴィエラがこう言うくらいなのだから、人間的にも出来たやつなのであろう。
今シーズンはNY支店ことニューヨーク・シティFCに出向。出だしは良かったのだが、チーム自体の整備不良も相まって、竜頭蛇尾に終わってしまったようである。デビュー戦の動画を見る限り、相手が緩いとはいえ楔のパス、ライン際のボールタッチ、加速力など相当に力がある選手みたいなので、本当にペップが来たら好かれそうな気がする。
CMF
■ジョージ・エヴァンズ George Evans 元イングランドU20代表 1994.12.13
地元生まれの地元育ち、6歳からシティにいる生え抜き中の生え抜きで、今シーズントップデビューした際は地元紙Manchester Evening Newsが「シティ初、全ての年代チームを経験した生え抜き選手!!」と特集記事を出していた。数日後に「いや〜ごめんごめん、クリス・チャントラーがいたよね?覚えてる?俺は覚えてるよ〜」みたいなことを白々しくツイートしていたが。お前、完全に後で思いだしたやろ。
キャリックに似た長身のアンカーで、中盤の底でパスを捌いているタイプだそうだ。とは言えレンタル先では56試合で6得点、トップチームでも親善試合でとんでもないミドルを決めており、このポジションの選手としては得点力もある。
すでに21歳ということもあり、前述のようにレンタル経験豊富だが、いずれも3部以下なのがちょっと厳しい。今シーズン末には契約が切れるため、このままウォルソールに居残ることになるかもしれない。レギュラーで出てるし。少々切ないけどね。
(追記)と思ったら、レディングへの移籍が決定してしまった。切ないが、21歳で3部以下の経験しか無し、という状況ではやはり難しかったか。とは言え、2部かつ最近はプレミアにも1年昇格していたレディングというのは、それなりの評価を得ている証拠だ。出来れば成長して戻ってきて欲しいところ。
■キアン・ブライアン Kean Bryan イングランドU20代表 1996.11.1
こちらも地元っ子、11歳からシティに在籍するMFで、U21チームではキャプテンも務める。名前のつづりを見るに「キーン」と読むのだと思っていたが、シティ公式チャンネルの特集動画(その名も『ライフ・オブ・ブライアン』。Always look on the bright side of lifeってか)ではコーチが思いっきり「キアン」と発音していたので、キアンと呼ぶことにする。まあ、この辺はもう訛りの問題かもしれない。
クラブの公式サイトではBox-to-BoxタイプのCMFと紹介されているが、CBやアンカーを担当する試合が多いようである。先の動画では本人が「LBもいけるよ」と言うように、左利き。IEKのマッチレポを読む限りでは、強いて挙げればデルフが一番近い選手なのだと思われる。今の1stチームでは。まだ19歳なので、あと2年は猶予があるか。
■オリヴィエ・ヌチャム Olivier Ntcham フランスU20代表 1996.2.9
アフリカ系の選手、特にセネガル人やセネガル系フランス人には昔から付きまとう問題なのだが、Nで始まる名前はとにかく日本語表記が揺れる。エンなのか、ンなのか、ヌなのか。
最近では八塚アナが「ンチャン」と呼んでいたとの情報を目にしたが、フランス人はあれ発音しないそうなのね。「チャム」。サンリオのキャラクターか何かか。英語圏では「ヌチャム」だったり「チャム」だったりしているので、ひとまずヌチャムと呼んでおこう。
まあいい。パワーとスピード、キープ力を備えたMFで、攻撃面で気が効くエシエンという風情。背筋のせいで首が無い。
今シーズンはなんとローン先のジェノアでレギュラー格に定着。早くも4-4-2にガーディアンが「新しいポグバ」と雑な褒め方を始め、ジェノアのプレツィオージ会長も「フットボール界に四半世紀身を置くワシが観た中でも最高の19歳じゃ」と言いだした。
一方で観た人がいずれも「未成熟」と称す通り、まだトゥレやフェルナンジーニョの後継として使うには早い模様。あと1年半、ジェノアで頑張って頂きたい。顔は俺の知り合いの弁護士の先生に似ている。
■セコ・フォファナ Seko Fofana 元フランスU19代表 1995.5.7
もろにヤヤ・トゥレを若返らせたような、デカくて強くて速いMF。昨シーズン貸し出されたフラムでもファンから「エナジーとコミットメントは素晴らしい。才能はあると思う」とコメントされていたが、一方で「とにかく雑」という評価が絶えない。ファーストタッチはあっちゃこっちゃ行くわ、ドリブルは頻繁に流れるわ、シュートは空へ飛んでいくわといった具合。昨シーズンのフラムが残留争い中で厳しい環境だったのも確かだが、まだまだ使えるレベルにはないようだ。
今シーズンはバスティアにレンタルされ、レギュラーを確保。シティのトップチームに食い込めるかは難しいところだが、選手として成長はしているようである。
■マヌ・ガルシア Manuel “Manu” García Alonso 元スペインU16代表 1998.1.2
ようやく18歳になったばかりだが、すでにトップチームでも1得点。スペイン人というだけで頼りになる気がするのは期待し過ぎだろうか。
オビエド出身なので、アストゥリアス人。さすれば、きっと両足が使えてチームのために必死に走れる選手であることは間違いないと思われる。
細かいボールタッチとキープのうまさはシルバに良く似ているが、もう少し後ろ重心というか、3センターのCMFやってそうな感じ。プレシーズンでは少ないタッチで捌きつつ、タイミング良くゴール前に入ってくる姿が目立った。
技術的には相当通用する水準にあるので、あとは肉体面か。さすがに守備で身体を寄せてボール取れないし、ゴール前に入ってきてもシュートがきちっと打てないのが惜しいところ。
とはいえ、なんだかんだ今の育成年代組から生き残る選手がいるとすれば彼な気もする。
アストゥリアス人について
AMF
■ベルサント・ツェリーナ Bersant Celina コソボ代表/ノルウェーU21代表 1996.9.9
先日のノリッジ戦でトップデビューを果たしたAMF。シティが提携しているストレムスゴッツェ(ノルウェー)にいたところを引き抜いた。しかし、コソボは人口比でのタレント排出力高すぎやしないか。
昨年はU18リーグで14試合9得点、UEFAユースリーグで7試合4得点と活躍。すでにコソボ代表では得点も決めている。(まあコソボは親善試合しかできないのだが)。
さほどスピードがあるようには見えないが、細かいボールタッチと決定力が魅力らしい。あとFKもバシバシ決めている。ジャストにインプレッションだが、なんかカップ戦くらいだったらスタメンで出してもそこそこやりそうな気がするので、これはちょっと育ててほしいぞ。
最近はミドルズブラやセルティックへのレンタル話が出ているが、前者はカランカ大明神がチェルシーのバンフォードを育て、後者は昨年デナイエルが世話になった実績がある。よりどりみどりと言えよう。
下の動画はコソボ代表での得点。アルバニア語(と思われる)で名前を読まれる場面もあるので貴重な動画であろう。でもイングランドだと「セリーナ」か「チェリーナ」になっちゃうんでしょうね。多分。
■スィナン・ビティーチ Sinan Bytyqi オーストリアU21代表 1995.1.15
彼もまたコソボ人、しかもツェリーナと同じ街の出身だが、育ちはオーストリア。AMFの割にはデカくて異様に手が長い。ツェリーナよりはウィング寄りで、スピードもあるらしい。FKもそこそこ上手。
昨シーズンはオランダのカンブールに貸し出していたのだが、可哀想なことに膝を壊して全治6カ月。最近ようやく復帰した。
もう21歳で、契約は2017年夏まで。チームに残れるか、過酷な1年半になりそうだ。ちなみに、ビティーチというのはアルバニア人には割とポピュラーな姓らしい。
■ブランドン・バーカー Brandon Barker イングランドU20代表 1996.10.4
紛うこと無きMade in Manchesterの左ウイング。切れ込んでの右足、縦に抜けての左足、両方強力かつ正確なショットが撃て、ユース年代では点を取りまくっていた。
ドリブルが基本的にスラロームなのと、フェイントかけるとバランスが崩れがちなのが懸念材料ではある。この手のタイプって、トップに上がると急に通用しなくなりがちなのよね。
2部で残留を争うロザラムではデビュー戦でいきなりスーパーゴール、MOTMに輝いたが、その後はなぜか全く使われずにシティに帰還。貴重な地元育ちだけに、モノになってほしいところだが。
ヴァーディーはいくらで買うべきか
ヴァーディーである。時代は今。
降格候補にも挙げられていたレスターを首位に押し上げ、自らはリーグ新記録の11試合連続得点。12月27日現在で15得点を記録し、得点ランクのトップに立っている。もはや「Jap」発言騒動もどこへやらといった風情。
これに対し、まんゆ、チェルシー、リヴァプール、マンチェスター・シティ、果てはバレンシアにレアルマドリーまでもが獲得を検討していると報道され、移籍金は£30mに上るという噂だ。
£30mと言えばアグエロやロビーニョ、シェフチェンコとほとんど同額、世が世ならブッフォンやネドベドが買える額である。
ときに、選手の価値とはいかにして測られるべきものであろうか。取引なので、売り手と買い手が納得すれば、いくらであろうが成立はする。アブダビによる買収直後のシティがカカーに£100mをつけたというのは有名な話だが、oasisのノエル・ギャラガーに言わせれば
「昨日の新聞で見たけど(マンCのライバルであるマンチェスター・ユナイテッドFCの)アレックス・ファーガソン監督の記者会見での顔ったらなかったな。えらいショックを受けてたみたいでさ。あの表情だけで1億の価値があるよ」
なのだ。
しかして、あの選手は当たりだったのか外れだったのか、贔屓のクラブは買い物が上手いのか下手なのかを考えるに際して、もう少し定量的な基準があっても良いではないか。良いはずだ。
ということで、今回はM&Aにおける企業価値の算出方法にこじつけながら、得点という判りやすい指標があるFWに対象を絞って、サッカー選手の価値算定について一席ぶちたいと思う。とくに暇でも無いけど。
ファイナンスの世界において、企業価値とは当該企業が将来に渡って生み出すキャッシュフローの現在価値の合計を指す。
サッカークラブにおいてキャッシュフローの源泉になるのは基本的には勝利、すなわち勝点であり、勝点によって得られる順位だが、得点と勝点の換算式はすでに計算したやつがいる。
さらに言えば、得点によって順位が決まり、順位によって収入が(おおよそ)決まることを考えれば、得点はキャッシュフローに換算しうると言えよう。だいぶ、間接的だが。*1
「これらを考えると、トップリーグでのゴールに、共通の価値を見いだすことは可能であるはずだ。そしてポンドをドルに、ユーロをポンドに替えるのと同じように、ゴールを勝ち点に替えるための為替相場を想定することもできる」
「クラブにとって、プレミアリーグに残留することは収入増を意味する。プレミアリーグとイングランド2部のチャンピオンシップの平均的なクラブの収入差は大きく、テレビ放映権だけを見ても、約4,500万ポンドの違いがある。
(『サッカーデータ革命』クリス・アンダーセン&デイビッド・サリーより)
ということで、今回は当該FWが各クラブの在籍期間において生みだす得点の総和を持って、その選手の価値としたい。
■前置き
具体的な価値算定に移る前に、過去の移籍金とその後の得点数をもって、誰の投資効率が良かったのかを見てみる。対象期間は2007/08から2012/13までの6シーズン、選手はアーセナル(ARS)、チェルシー(CHE)、リヴァプール(LIV)、まんゆ(MNU)、シティ(MNC)、トッテナム(TOT)の6クラブが獲得したFWとし、指標には獲得時の移籍金と、加入後の総得点(2014/15まで)とする。移籍金フリーの選手は除く。
対象期間を2007/08からとしたのは、移籍金の水準自体が上昇しているため。加入年を2012/13までとしたのは、総得点を対象とするがゆえ、それ以降に加入した選手が不利になるため。
2012/13シーズンに加入した選手は2014/15までに3シーズンが経過しているので、ほとんどの契約は4~5年契約であり、かつ大半が満了前に売却されることを考えれば、各クラブが獲得時に想定している在籍期間は3シーズンあれば十分であろう。
総得点を対象とするのは、選手をとっかえひっかえするより、同じ選手が活躍し続ける方がクラブにとってリスクが少ないから。
仮に1シーズン当たりの平均得点を対象とした場合、移籍金も1シーズン当たりの得点数が同じで10年活躍する選手と1年だけ活躍する選手のコストパフォーマンスは等しくなるが、後者の場合、初期投資を取り戻せるだけの価格で売却し、同程度以上の価値を持つ後任を探し、交渉し、入団させ、馴染ませるプロセスが必要になる。*2
そのコストが無くて済む分、前者の方がキャッシュアウトは少なくなる可能性の方が高いであろう。また、売る方にとっては買う側がその選手に幾ら給与を支払うかは知ったこっちゃないので、指標には含めない。
さて、前述の基準に該当する50事例をプロットしたのが以下の図。
高価だがパフォーマンスも良かったのがアグエロ、スアレス、テベス(シティ時代)、トーレス(リヴァプール時代)、逆に高価なくせにパフォーマンスも悪かったのがトーレス(チェルシー時代)、ロビーニョ、キャロルと言った辺り。
安価だがそこそこ点をとった例としては、チチャリート、ジルー、デフォーなどが該当する。おおよそ、日頃イメージされている通りではなかろうか。
ただし評価の面では相対的な指標だけで見ても仕方ないので、絶対的な評価指標として、1シーズン当たりの平均得点を併用する。
幾ら掛けようが30点とりゃ名選手だし、タダでも20年勤続できても、1シーズン2点しか取らないFWには価値を認め難い。
ということで、縦軸に在籍時の実働1シーズン当たりの平均得点、横軸にコストパフォーマンス(総得点/獲得時の移籍金)をプロットしたものが下図である。凡例はごめん、めんどくさかった。
全部ひっくるめてみると、移籍金£1m当たり2.5点のリターンがあることになる。
まずチチャリートことエルナンデスの投資効率は圧倒的だ。たった£5Mで59点。1シーズン当たり平均14.8点だから、リーグ戦でも大体10点は取っている。これがエースとなると辛いが、大黒柱のルーニーがいるから十分であろう。
逆にコスパも悪けりゃ点も取れなかったのが左下で、キャロルにジョー、サンタクルスにドスサントス、ビアンキと懐かしのジャンク債どもの束。サンタクルスとジョーに至っては、減損出して直接的にキャッシュフローを£20m近く吹っ飛ばしているので、クソディールの威力たるや侮れないものがある。
評価が割れそうなのは中段左のグループで、コスパは悪いが、シーズン10点程度は取った選手。アデバヨール、ロビーニョ、ベラミー、バロテッリというアブダビ初期のシティ4人衆や、ダレン・ベント(TOT)、ロビー・キーン(LIV)といった辺りだが、その頃のシティのように戦力整備より資金調達が先にできたタイプのクラブなら許容範囲だろうし、リヴァプールやトッテナムのように相対的には予算規模が小さいクラブにとっては、繰り返すとすぐ監督の首が飛ぶタイプのディールである。
クラブ別にみると、アーセナルは総体としてコスパは良いのだが、突き抜けた選手もいない。ジルーとか。ジルーは1年平均19.3点ほど取る計算になるが、これが20点を超えてくるようだと優勝に手が届きそうな気がする。
極端なのがリヴァプールで、トーレス、スアレス、スタリッジという高コスパ、高得点力の選手を3人も引いた一方で、それ以外がほぼ全てクソディールだったため総体としての投資効率はさほど高くない。大当たりを引くことにかけては長けてるんだが。
シティはタクシン、アブダビユナイテッドグループと2度も富豪オーナーが買収したため、獲得した選手自体、他クラブの約2倍いる。当然外れも多く、タクシン時代からアブダビ初期(08/09まで)はほぼ全員外れである。サンタクルスで減損ぶっこき、割高ながらアデバヨールで我慢し、満を持してシュアな大物(アグエロ)に大型投資を掛ける、というのは企業が成長する姿を見ているようで微笑ましいですな。
一つ飛ばしてトッテナムは、クラウチ、アデバヨール、パヴリュチェンコとコスパが良くて1シーズン10点程度決める選手を獲るのは天才的に上手い。明らかに外れたドスサントスにしても、投資額は£4.2m。でも一番点取ってるデフォーでも1シーズン15点程度。圧倒的なスパーズ感である。こんなにスパーズっぽいクラブはスパーズ以外あるまい。
■ヴァーディーにいくら出す
前置きが長かった。本題のヴァーディーだが、ここまでは過去の事例から「移籍金£1m当たりどの程度の得点を期待できるか」という話をしたので、獲得後に期待する得点数から逆算して適正な移籍金の水準を算出してみる。
いわゆるインカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、コスト・アプローチの中の、マーケット・アプローチである。である、ってことも無いんだけど。
マーケット・アプローチと言うからには適切な比較対象を選ばねばなるまい。ヴァーディーの年齢(来月には29歳)、国籍(プレミアムが乗る)を考えて「26~30歳のホームグロウン適用者」を対象とすると、引っかかるのはロビー・キーンが2回(LIV移籍時と、半年でTOTに出戻ったとき)、クラウチ(TOT)、ベラミー(MNC)の4例。総得点/移籍金マルチプルの倍率は1.57となる。
本来ならばプレースタイルや移籍先でのポジションも比較対象選定の基準に加えたいが、例に限りがあるので今回は除外。
上記の例ではホームグロウンプレミアムと非流動性プレミアムを両方含むことになるが、前者はざっくり計算して最低10%程度は乗ると思われる。
ここでジェイミー・ヴァーディーについて上記の倍率を使い、適正価格を考えてみる。
変数はa)1シーズン当たりの見込得点数、b)見込勤続年数、c)プレミアムの3つだが、前述のようにプレミアムは今回は考えない。リヴァプール、チェルシー、まんゆ、シティのどこかに移籍する場合を例として、ざっくり計算。
A)1シーズン当たりの見込得点数
2015年12月28日現在、ヴァーディーは17試合で15得点。欧州カップ戦が無いとは言え、大ブレーキがかからなければ、全コンペティションを通じて25得点は取りそうだ。
ただし、上記のビッグクラブに移籍後もそのペースが続くと考えるのはさすがに楽観し過ぎだろう。対象とした9シーズン中、1シーズン当たりの平均得点数が25に達するのはセルヒオ・アグエロだけである。
リーグ戦で12,3点、カップ戦で2,3点として、ざっくり15点くらいは期待するとしよう。逆に言うと、シーズン15点期待できないFWを上記のようなクラブが買うケースは少なかろう。
B)見込勤続年数
ヴァーディーは1987年1月生まれの28歳。関係無いけど、槙野や梅崎、森重とタメなんですね。だから何だって話だけど。
で、30を超えてくれば当然衰えが来る可能性は高い。2016/17シーズンから移籍するとして、29歳、30歳の2年間は15得点、31歳は衰えてその半分くらい、その先は売却か退団、くらいに見込むのが妥当ではなかろうか。(ちと楽観的な気もするけど)。と言うことで、見込勤続年数は2.5とする。
さて、買い手目線でヴァーディーの価値を計算してみると、15×2.5÷1.57で、£24.0m。まあそんなもんか、という水準ではなかろうか。実際の企業価値算定では価格を一定のレンジで引くことが多いので、例えばa)見込得点数をもう少し保守的に引いてみたとしよう。
例えば最初のシーズンは15点、次のシーズンは何とか頑張って10点(ビッグクラブの控えFWとしてはギリギリではなかろうか)、30を超えたら売る、という前提で考えると、25÷1.57=£16.0m。
大体£16mから£24mのレンジで交渉を行うイメージになる。
逆に売り手のレスターからすれば、ヴァーディーはもっと点を取れると主張することも出来る。
ビッグクラブに行けばローテーションもあるし、競争も激しいが、一段上のチームメートとともにプレーすることで更なる覚醒が促せるに違いない、コンペティションも増えるし、20点は行けまっせ。年が年なんで衰えはしましょうが、20点、15点、10点で、3年45点は取りますよ、と。そうすれば£28.7mになる。
あとはそうだな、例えばチェルシー辺りに対し、お客さん、点が取れてませんなあ。FWの頭数が足りないんじゃあないですかい、そういやあ今年は調子があまりよろしくないようで。
去年はスモール・スカッドでやんしたからね、疲れが出たのかもしれませんなあ、へへへ。こいつの頑丈さはお墨付きでっせ、みたいなこと言って、少し乗っければ£30mだ。既存製品に対する補完性があると言っても良い。一方で過去の事例を見る限り、£30mに達するには現状の得点力を31,2までキープする必要があり、さすがにそれは楽観的すぎる気もする。
ということで、シティやチェルシーが払うと言われている£30mはちょっと払い過ぎだな、と言う話だった。
■本当に大事なこと
今回出てきた変数は、主に「倍率をどう計算するか」と「獲得後の貢献をどの程度見込むか」に分けられる。
前者については比較対象の抽出、対象期間の選定を厳密に行う必要があるが、より本質的に重要であり、かつスカウトやアナリストの腕が問われるのは後者だ。
企業の価値算定でも同様だが、より重要なのは、選手の能力をどう評価するか、そして結果を最大化するための施策を適切に打てるか否かである。
という、小奇麗な話にて終了。長かったが、8割はこじつけであった。「トッテナムの圧倒的トッテナムらしさ」のところで言いたいことはほぼ言ったからかもしれない。
2015/16シーズン半期レビュー
無失点の5連勝と華々しいスタートを切ったが、結局いつものペレグリーニ・シティであることが判明。
定期的に大爆発炎上する守備と、定期的に大爆発炎上させる攻撃がトレードマークだが、後者は最近ただの弱い者いじめになってきているのが気に係る。
得失点と勝点で見ても、過去4年の平均から見ればむしろちょっと悪いくらいである。逆に言えばそれでも首位なのね、ちう気もする。
(14節までの各シーズンのスタッツ推移)
個人的には昨シーズンより内容としては多少マシだと感じていて、それは主に「全く回収する気が無いロングボールのこぼれ球」とか、「外房の海岸沿いばりに開けたスペースを全力放置」とかの素人目に見ても大問題でしょうという部分の放置が減ったというところから来ているのだと思う。
もちろん場面として無くは無いし、結果としては同じ数の失点を食らっているのだが。あとボール保持時の距離感の悪さは多少改善された気がする。
あと、昨シーズンも多少やっていた、というかまあ贔屓目に見ればやろうとはしていたショートカウンターは、前プレ魔人フェルナンジーニョの復活とデルフの獲得もあって、そこそこハマっている。主に2点目取るまではだが。
2点取ると恐ろしく気が抜け、かつ相手の変化に合わせることもできないので、下位チームは下手に5バックで守り倒そうとして終了間際にこじ開けられるより、2点取らせてから同点狙いに切り替えた方がいいんじゃないだろうか。
これまでよりは多少守備方面で相手に合わせた柔軟なアプローチを取るようになり、代表例が最近やり出した4-1-4-1であるが、リヴァプール戦では「激しく前プレされると泡を吹く」、サウサンプトン戦では「ヤヤが疲れてきたタイミングでフェルナンドを入れないとザル化」と問題が即バレ。
4-1-4-1に限らず、とにかく試合中の相手の変化に対応する動きが鈍いというのが大きな問題だ。別に選手交代を早くせえとばっかりは思わないが、昨シーズンからずっと、どうもペレグリーニは守備のケーススタディをあまり仕込んでいないということが明らかになっているので、後半戦も恐らく同じ事態が起こるだろう。
目下延べ怪我人数1位のクライシスを乗り越えられれば火力で何とかなるかもしれない。ならなければ優勝は難しそう。ちなみにサウサンプトン戦の後半は芸術的なスペース管理が行われていました。前半は良かったんだけどねえ。
開幕前はやれ4位だ5位だとの予想が飛んだが、さすがにスターリング、オタメンディ、デブライネと獲得し、かつ主力の大半を残して2位でもOKですではお天道様が許すまい。さてどうなるやら。
私はジェラードが結構好きで、中学生時代には00/01シーズンのサウサンプトン戦でジェラードが決めたミドルを良く真似したものだった(当然、一本もそれらしきものは打てなかった)。ついでに言えばウリエ時代のメンバーも割と好きだった。
のだが、ご存知のようにジェラードと言う男はリーグに関してのみ喜劇的な悲劇を被ってしまう運命にあった。
具体的には13/14のリーグ戦終盤や、昨シーズンのまんゆ戦やストーク戦のことだが、なんかこう、「我が社の最重要顧客だからくれぐれも失礼がないように!」と言い残した秘書が客の椅子にブーブークッションを置いているというか、無礼を承知で言えば、「えっと、これツッコんじゃダメなやつでしたっけ」みたいなタイプの悲劇がこの上なく大事な局面で巡ってきてしまう人だった。
何が言いたかったかというと、ジェラードの離脱がきっかけではないだろうけど、折しも彼の退団とクロップの就任を機に、そういったコメディーとは無縁のクラブになったのかもしれないなという感じはする。めっちゃ強いもん、クロップ来てから。
ちょうど友人とクラシコを見ていたので個人的には先日のシティ戦をきちんと見ていないのだが、クラシコで盛り上がるスポーツバーの一角、隅っこのモニター1つだけで流れていたシティvsリヴァプールで、マンガラが泡を吹いて倒れているのは見た。デミチェリスも倒れていたかもしれん。ヤヤトゥレは漏らしてた。
組織された前プレに対抗する術を持たず、かつハイテンポの試合に弱いというペレグリーニ・シティの弱点を完璧に突いた手腕、さすがクロップである。
シーズン序盤のもたつきで今シーズンはCL圏内確保が現実的な目標かと思われたが、12月3日時点で首位とは6ポイント差。優勝は十分に射程圏内だと思う。
今シーズンの目標として優勝を狙っていくべきだという理由はもう一つあって、まずリヴァプールは上位陣の中で比較的戦力維持が厳しいということ。
残念ながら順位、参加するコンペティション、資金力の面で国内でもトップティアとは言い難いので、食物連鎖の上位クラブからの引き抜きを被りやすいところがある。例えばアロンソとか、トーレスとか、スアレスとか。コウチーニョにバルセロナが興味、みたいな話は十分ありそうな気がする。
もちろんアグエロやアザールがマドリーとか、英国内のクラブはどこも程度の差はあれ直面する問題ではあるのだが。
また、資金力不足が戦力維持にもたらす問題のもう一面としては、ファンドが劣るので狙った選手が思うように獲れなかったり、ギャンブルになりやすかったりすることだ。
例えば(調達方法には色々異論もおありでしょうが、まあ比較として怒らず聞いて頂けると)シティのFW獲得を見てみると、アデバヨル、テベス、ジェコ、アグエロ、ネグレドといった各リーグのトップスコアラーかそれに近い水準の選手を£20Mから30Mかけて獲るので、効率は多少悪くても、ピッチ上の結果については外れが少ない。
一方リヴァプールは単純なファンド不足もあろうし、それが故に「値段の割に結果を出す選手を獲る」という方針があるのかもしれないが、概ね£10M前後で少々格が落ちる選手を獲る。結果としてピッチ内でも大外れのパターンが増える。例えばバロテッリとか、アスパスとか、ボリーニとか。
10/11から14/15の5シーズンに獲得したFWを比較してみると、シティは移籍金に£136.4Mかけて245得点。リヴァプールは£92.5Mを投じて155得点。スタリッジとスアレスと言う稀代の大当たりを含めても、移籍金当たりの効率ではシティに劣っている(シティは£1M当たり1.80得点、リヴァプールは同1.68得点)。近年に限らず、リヴァプールは偉大なストライカーを自前で排出したり(ファウラー、オーウェン)、移籍市場からとんでもない大当たりを引いてきたりする(トーレス、スアレス)一方で、大エースの後釜探しは概して上手くない。※得点は10/11から14/15までの累積。
(source:Transfermarkt, Wikipedia)
もう少し経営寄りの話をすると、売上規模の不足はほぼ20年来のリヴァプールの宿痾だ。
例えば97/98シーズンのまんゆの売上規模は、リヴァプールの1.93倍。その後、04/05シーズンには1.36倍まで迫ったが、2014年時点ではまた1.69倍まで差が広がっている。自分の1.7倍大きなビジネスをしている相手に勝つのは結構大変である。
前にも言ったが、世界に冠たるブランドを持ちながら、ピッチ上の成績につなげる効率が低い、もっと具体的に言うと監禁能力が低いのは非常に勿体ない。
(source:Guardian,Deloitte Football Money League)
もちろん現経営陣移行後(テイクオーバーが2010年暮れなので、11/12シーズン以降)は前述のまんゆとの差も縮まりつつあるし、まんゆがCL出場権を逃したおかげで、2015年の決算ではさらにその差が小さなものになるはずだ。とは言え上に書いてきた懸念は短期的に解決するのが難しい問題なので、できれば今シーズン勝っておきたいところ。しかし優勝したら偉業だなあ。クロップの銅像くらいは簡単に建ちそうだ。
・・・・と思っていたんだけど、最近は無理にタイトルを狙わなくても十分なのではないかと言う気もしてきた。
長くなるから詳しくは書かないが、無理に軍拡競争についていかなくとも、Profitableなビジネスを維持し、地元のファンに密着し、自他のスカッドの巡り合わせで20年から30年に一回優勝できれば、というのもそれはそれで立派な事業モデルである。ファン層や現状のポジションを考えると無理のない道でもあり、その観点から言えば今のところは素晴らしい運営手腕だ。逆に言えばその点シティは難しいところなのだが。
「今年は一味違う」とはボジョレー・ヌーボーとアーセナルのお決まりだが、得失点と勝点で言えばさほど大きな差は無い。過去4シーズンの平均に比べれば多少良くなったくらいだろうか。このチームの課題は何よりもシーズン通した継続性なので。
折しもコシエルニ、サンチェス、コクランといった主力中の主力に怪我が発生。ここから年明けにかけての過密スケジュールを無事に乗り切れるかどうかが問題だが、ごめんやってるサッカーはよくわからない。見てない。とは言え、戦術の幅がシティより広いのはアドバンテージだろう。ジルーが20点決めれば違う結果が待っていると思われる。
(14節までの各シーズンのスタッツ推移)
ちなみに「効率的に獲得勝点を高めるにはGKとCBに投資すべき」という話が最近出てきていて、その点でチェフに投資したアーセナルは先見の明がある、ましてや手持ちキャッシュに余裕があることを踏まえると、ファンドと頭脳を手にしたアーセナルは来シーズン以降のタイトルレースを主導するのではないか、という説があったが、どうだろうね。
チェフはまあ、良いGKだと思うが、チェルシーから買ってるやないか、みたいな。遅れすぎると先見の明があるように見える例だと思ったのだが。初めてヴェンゲルがまともなGKを買った、という文脈で捉えられるケースだと感じたのですけど。
まあそこが可愛いんだけどね、ヴェンゲル。ファーガソンも含めて、その辺は可愛げがあった。タイービとかさ。個人的にはシーマンの控えをやっていたマニンガーが好きでした。
ペレグリーニ就任以来、「シティが見るからに気合いが入っている(ビビっているとも言える)」試合はモウリーニョ・チェルシーだけなように見える。いや、失礼な言い方だとは思うんですけど、感想としてね。それで痛い目いっつも見るからね。
それで3-0でノしたときは大層嬉しかったのだが、その後のチェルシーの不調でやや価値が薄れてしまった気がしなくもない。モウリーニョの人格にクラブのPRも合わせすぎない方がいいと思うんだけどね。
移籍市場が閉まる直前に獲得し、モウリーニョが「ぶっちゃけ俺は知らん」と言ったというCBパピ・ジロボジは知り合いが「良い選手かどうかは置いておいて、とんでもないやつだ」と言っていたので、見るのを楽しみにしている。現状はさほど信頼がおかれていないようですけど、ズマとジロボジのCBコンビは新大陸の1つや2つは見つけそうな気がする。
見てないし、書くことも特にない。
マンチェスター界隈のアカデミーで起きていることについての報道まとめ
2014年12月8日、シティ・フットボール・アカデミー(CFA)の使用が開始された。面積は32万平方メートル(ディズニーシーよりやや小さいくらい)、ファーストチームの練習用ピッチが4面、育成年代のピッチが12面、7,000人収容のスタジアム(女子チームとユース用)、専用の学校、居住施設を兼ね備えている。
その3日後、Independentにポール・スコールズのコラムが掲載された。いくらか訳す。
http://www.independent.co.uk/sport/football/news-and-comment/paul-scholes-column-as-a-manchester-united-man-im-worried-that-manchester-city-have-moved-ahead-of-9919194.html
- 俺がガキの頃、マンチェスター・ユナイテッドからオファーを受けたとしたら、シティなんて選択肢にも入らなかった。ユナイテッドが勧誘なんてしなくとも、子供たちはみんなユナイテッドに入りたがったものだ。
- 30年の時が過ぎ、状況は大きく変わった。それも、ユナイテッドファンとしては心配になる方向に。客観的に言って、シティがこれまで達成してきたことは素晴らしい(Impressive)と言わざるを得ないし、シティがマンチェスター界隈の育成シーンにもたらしたインパクトは、CFAのオープンに始まった話じゃない。
- 育成プログラムに関してシティが急速に進歩していることは誰もが知っている。ユナイテッドの選手たちでさえ、息子をシティのアカデミーに入れているくらいだ。
- 育成ってのは難しい。俺は幸運にも、愛するクラブのファーストチームで活躍することが出来たが、そんなことはめったに起こらない。もし£200m(だいたい368億円)かけたアカデミーからほんの一握りでもファーストチームでプレーする選手を輩出出来たら、シティは投資した価値があったと感じるだろうし、それは明らかに正しい。
- ユナイテッドはどこよりも多くFAユースカップに勝っている。だが、今やシティの方が優れた育成プログラムを持っていて、近隣で良い選手を獲得できているのもシティだというのが、マンチェスターでのもっぱらの噂だ。
- どうしてそんなことになったのか、これだってことは言えないが、原因は一つじゃない。プロ契約がデカい、というのは無視できない要因だ(※ほんとかいな)
- また、コーチングもその1つだ。俺はやるべきことを自分で決められる選手を育てる方が好きだが、俺が聞いた話によると、シティの育成はもっと明確なシステム(※ここではフォーメーションに近いか)の中でプレーさせることに重点が置かれているらしい。U-18未満の試合結果は公表されていないが、俺が聞いた話ではユナイテッドとシティが対戦すると、勝つのはシティだという話だ。
- 育成年代での勝利はそんなに大事なことじゃないって人もいるが、俺は反対の意見だ。どうやって試合に勝つかは、勝つことでしか学べない。ユナイテッド時代はU-16だろうがU-18だろうが、勝利を求められていた。勝つことが、ファーストチームに上がるための準備になるんだ。
- ユナイテッドが最後にFAユースカップに勝ったのは2011年だ。そのときは、同じく素晴らしいユースチームを持っているチェルシーに負けた。心配なのは、ここ2年のユナイテッドがバーンリーと、ハダーズフィールドに負けていることだ。(※どちらも下部リーグ。ハダーズフィールドは2部から3部辺りを彷徨うチームである)
- ユナイテッドは育成に関して素晴らしい歴史を持っている。問題は、今の若手選手が十分なレベルにあるかということだ。例えばパディ・マクネアやタイラー・ブラケットが昇格してきたのはけが人が続出したせいだし、果たして彼らはトップチームに残れるんだろうか?ジェイムズ・ウィルソンにはチャンスがあるように見えるが。
- もっと大きな話をすると、シティは新しい練習場とアカデミーの施設を立ち上げた。ユナイテッドのキャリントンは素晴らしい練習場とアカデミーだが、シティのはレベルが違う。そういうことは、今の時代は大事だ。(※以降、“俺の若い頃は”の話なので端折る)
そして先週、Guardianのダニエル・テイラーがこんな記事を書いていた。長いのでちょこっと。(※訳し直し・追記)
Quietly, Manchester City are beating United at the generation game | Daniel Taylor | Football | The Guardian
- ユナイテッドは躍起になって否定するだろうが、ローカルライバルのことを気にしているのは、シティでは無く、ユナイテッドの方だろう。そしてそれは、シティがスカッドに多大な投資をしてきたからだけでは無い。
- 先月(9月)ユナイテッドとシティは様々な年代で対戦したが、1つの引き分けを除いてユナイテッドは全敗した。うち一つはU-14での0-9の大敗だ。シティのU-10とU-13は現在の国内王者で、U-15は開幕戦の前半だけでリヴァプールから6点を取り、U-16は開幕10試合で57点を取って全勝した。
- すでに、シティは16歳-19歳までの年代で26人の代表選手を抱えている。うち14人はイングランド人で、アカデミーの選手の2/3は地元マンチェスターの出身だ。
- 『Sons of United』(ユナイテッドのアカデミー記)の著者トニー・パークに言わせれば、(シティの新アカデミー施設は)「ユナイテッドのとは到底比べ物にならない」という。
面白いのは(向こうは面白くもなんともないだろうが)、シティの選手勧誘方針が「やりすぎ」ということでユナイテッドがリーグに不満を申し立て、シティとの対戦が行われないように要請したらしい、という報道があったことだ。「酸っぱい葡萄」という表現が使われている。
- もちろん、現時点ではユナイテッドはシティの、そしてその他全てのクラブのはるか先を(育成の歴史について)行っている。シティのアカデミー出身者で最後にレギュラーになったマイカ・リチャーズがデビューしてから、先週の金曜日でちょうど10年が経つ。以降、27人がトップチームに昇格したが、彼らの先発機会を全て合計しても122回にしかならない。
さて、最後の点についてはユナイテッドのファン側から見たコラムがある。
(別に、ダニエル・テイラーがシティ側なわけではないが。これがスチュアート・ブレナンだったりロブ・ポラードだったりしたら眉唾だ)
- 9月の代表戦ウィークで、ユナイテッドの選手はイングランドの年代別代表にほとんど招集されなかった。
- ユナイテッドはもはや育成システムにおいてトップの地位にあるわけでは無くなってしまったのだろうか。
- チェルシーとシティが良い例だ。チェルシーは育成に関する「10年プラン」をちょうど終えたところで、ユースに強くコミットしている。コーチの契約から、施設、スカウティング、勧誘プロセスに至るまで、明確なプランが実行されてきた。結果はUEFAユースリーグ(※ユース年代のCLに対応する大会)の優勝だ。彼らにとって次のチャレンジは、ファーストチームに継続的に選手を供給していくことになる。
- シティも同じように、計画を進めつつある。彼らは勧誘に特に重点を置いており、U-13のレベルですら、国内最高のタレントを揃えている。そして、傑出しているのが新施設、CFAだ。今やシティは若い選手たちがその才能をフルに発揮するための施設を揃えていて、ユナイテッドは嫉妬するしかない。
- 他のチームが大きく前進しているのに対し、ユナイテッドは最大限良く言って、停滞している。マクレアの後任はまだ用意されていない。
- モイーズ自身は明らかにしていないが、(ユナイテッドの監督時代)アカデミーの状態に驚き、大改革を求めたと言われている。ユナイテッドはどこで出遅れたのだろうか?
- 表面的には、事態はそれほど悪くない。ユナイテッドのU-21は昨シーズン、ここ4年で3回目の優勝を達成したし、U-18チームには才能ある選手が揃っている。
- 彼らのほとんどはイングランドの年代別代表に呼ばれていないが、これは不可解だ。もっと呼ばれてしかるべき。
- シティに9-0で敗れたことばかりが報道されるが、主力は別の大会で不在で、負けたのはほとんど1つ下の年代だ。主力が揃った時のシティとの試合では、結果は0-0だった。
- だが、懸念すべき兆候はある。1つ目はユナイテッドの選手たちが、自分の子供をシティのアカデミーに入れていること。2つ目は誰が所属しているのかが明確でないということだ。例えば、ヴァニヤ・ミリンコヴィッチ=サヴィッチは2019年までの契約を結んだが、クラブのウェブサイトには影も形もないし、先だってリーグに提出された登録選手リストにも名前がない。
- 3つ目と4つ目は、選手の勧誘と意思決定だ。
- 2年連続で、U-18チームが縮小された。選手が足りなくなってしまうため、ユナイテッドはローン移籍のオファーを断っているという。ローン先で経験を積めるはずが、その可能性を自ら遮断してしまっているのだ。
- マンチェスター近隣でも、その先でも、ユナイテッドの勧誘プロセスには問題がある。ノースウェストでの選手勧誘は常にエヴァートン、リヴァプール、シティとの競争にさらされているが、ユナイテッドは劣勢だ。(※テイラーの記事で、シティはSt Bede’s Collegeというそこそこレベルが高いグラマースクールと提携しており、それが選手勧誘に役だっているとの記述があった)
- 4つ目の意思決定については、ある代理人の言葉を借りれば「ぐちゃぐちゃだ。1つ決定するのに、6人のコーチを経由しなければならない」。6人かけてもなお、正しい結論が出るとは限らない。あるU-18の選手は昨シーズン、今期限りでクビと言い渡されたが、その決定に関わっていなかったコーチは驚き、決定を覆させた。
最後のは日本の銀行みたいな話だが、とにかく早く建て直しが必要だ、と言う話だった。
(以下追記)
で、ここで紹介しているようにガーディアンやらマンチェスター・イブニングやらメールやらがこぞって「マンチェスター・ユナイテッドの育成が危ないぞ」と叫び出しているので、反論記事が無いかと思ったのだが、ちょっと見つけられなかった。まあ、ファンフォーラムとかにはあるのかもしれないが。
「金ばらまいたって、優勝できるわけじゃないんだぞ!!」とどこかで聞いたような話をシュマイケル父がファンハールに対して言っている、という記事はあった。
Manchester United must develop more youngsters! Schmeichel delivers strong warning | Daily Mail Online
上にも訳したように、事実としてはユナイテッドのU-21は現状強い。U-18に才能ある選手がいるというのも事実なのだろう。
歴史的にアカデミー育ちをファーストチームに組み入れることに積極的なクラブだから、今後もしばらくはトップの試合に出場する選手が見られると思われる。問題は中長期的にどうなるかだ。
後の方にも書くが、トップチームが強いほどアカデミー育ちの選手をトップに組み入れることは難しくなる。
チェルシーの下部組織は2000年代後半から強かったが、ブルマ、ファン・アーンホルト、ウッズ、カクタ、ヌーブレ、マッケクランといった選手たちは、結局トップに定着できなかった。
これは取りも直さずこれまでユナイテッドの育成組織が以下に優れた選手を輩出してきたか、そしていかにトップチームで積極的に使っていく勇気と余裕があったかを示しているが、それも今後は危うくなるのかもしれない。
ユナイテッドの現状について、またアーセナルやリヴァプールについても書かれたコラムがESPNにあった。
Manchester United youth development Andy Mitten - ESPN FC
- ユナイテッドのアカデミーは偉大な歴史をもってほにゃほにゃ。数字上も、ユナイテッドおは試合に臨むメンバー(ベンチ含む)にアカデミー育ちの選手を最低1人は入れる、という記録を3,740試合に渡って続けてきた。第二次世界大戦の終わりにまでさかのぼる歴史だ。しかし、状況は変わりつつある。才能を獲得するための競争は激化し、優れた選手に対して、ユナイテッドはかつてほど魅力的では無くなっている。
- ファンハールはコーチ陣の刷新を求めており、ユナイテッドはかつての求心力を取り戻したいところだが、構造的な変革が無い限り道のりは厳しいだろう。ましてや、監督自身が3年だけしかいないと言われているのだ。
- マクレアの後任はまだ決まっていないが、内部情報では多くの会議と、トップクラブでの「エリート・プレイヤー・パフォーマンス・プラン」に関する規定を満たすための大量の事務処理が行われているという。
- 両クラブに通じる情報筋によれば(※なんじゃそら)、「これはシティにとってまだ始まりに過ぎない」。「今の時点では両クラブが抱えている選手の質に大きな差は無いが、それも変わり得る。シティはどの年代にもフルタイムのコーチを2人ずつ付けている。ユナイテッドはパートタイムだ。優秀なのもいるが、そうでないのもいる。トレーニング施設の設備はシティが優ってる。全て囲いがあるし、投光照明もある。」とのことだ。
- ユナイテッドはファーストチームにこそ照明があるが、ユースの方は吹きっ晒しの環境で練習している。
- 今や、マンチェスターで最も才能ある子供のほとんどは、シティが獲得している。最近では、11歳の子供がユナイテッドからシティに移籍した。彼は既に同年代でベストの選手で、ユナイテッドの環境に不満を持っていなかったが、彼の兄がユナイテッドから放出されたことを両親が不満に思い、兄弟まとめてシティに移籍させたのだ。
勧誘プロセスについて、もう少し細かい話がある。果たして、これまでこういったことに手がついていなかったのだとすれば、結局みんな育成なんて重視していなかったんじゃないの?という気もする。
- 情報通(※あの、、、)は明かす。「ユナイテッドは現状に満足してしまっている。彼らは、バスビー・ベイブスや92年組、それに最近もウェルベックのような地元の最高のタレントを獲得してきた偉大なユナイテッドだから、(放っておいても)選手が来ると思っているんだ。実際は他のクラブが進歩している間に、ユナイテッドは立ち止まったまま。シティに限って言えば。ユナイテッドを追い越してしまった」
- シティは若い選手に(ユナイテッドよりも)良いパッケージを用意できる。親に金銭面の勧誘もできる。単にマイルとか、スパイクとか、ユニフォームだけではなくてだ。
- シティの若い選手たちは練習だけでなく、質の良い私立学校で勉強も一緒に受けさせてもらえる。反対に、ユナイテッドの選手は、選ばれた数人だけ(ほとんどはマンチェスターの外から来ている選手だ)が、練習場の近くの無料学校に行ける(※”non-fee paying school)は、クラブ側が金を払わなくても通えるような程度の学校、という意味だと思う。多分、UKの子供の93%が行くという、税金で運営されているような学校)。ユナイテッドも学校とキャリントンへの居住施設建設を話し合っているが、まだ先の話だ。
どうせ、ほとんどの子供はプロにはなれない。であれば、親にとってはより質の高い教育をオファーされることは、相当な誘因になりそうだ。
- 選手の年齢が上がっていくほど、金がモノを言う。現在、ユナイテッドのU-18でプレーする選手の中でも有力な3人が、他のクラブからより良い内容の契約で勧誘されている。1つはリヴァプールだ。もし彼らがユナイテッドを離れても、何の不思議もないだろう。
- エヴァートンでさえ、オールドトラフォードのすぐそば、ストレトフォードにスカウト拠点を持っている。逆に、ユナイテッドは、リヴァプール(※ここでは土地名)でそういった動きをしていない。
ファーガソンはアカデミーの方にも大分影響力があったと聞くが、彼のやり方自体が時代遅れになっていたのではないか、という指摘がある。
シティの話に戻ると、施設だけではなく、人材の強化も始まっているようだ。アカデミー統括のマーク・アレンはメディア業界の人間(元MTV)だが、コーチ陣のトップであるテクニカル・ダイレクターは、元リヴァプールのロドルフォ・ボレル。ベニテス時代にリヴァプールのU-18監督、後にはリザーブチームの監督と、アカデミーのコーチ陣の責任者を務めた人物である。以下、リヴァプール関連のWikiの記載を借りよう。
ちなみにシティの育成チームを見ると、勧誘・獲得の責任者はウィガンでプレーした元ウェールズ代表のニール・ロバーツ(大昔のウイニングイレブンにいた気がする)、U-18の監督はブラックバーンやリーズで活躍したジェイソン・ウィルコックス、U-16の監督はこれまたウェールズ人のギャレス・テイラーが務めている。
(※追記終わり)
シティの今後の課題は(チェルシーがロフタス=チークで試しているように)、育てた選手をトップチームに引き上げられるかという点になる。U-21以下の年代に才能ある選手を揃え、最高の環境で育てることと、育てた選手をトップチームに入れることは別の問題である。前も書いたが、それができないことの問題は、まず1つは選手獲得の費用が余計にかかるということだ。
控えの選手ですら£30mかかるご時世、ユース上がりの選手でそれが賄えれば、浮いた分を本当の、自クラブからはなかなか育てられないトップタレントに充てることができる。
他には、よく言われるような「クラブのフィロソフィを理解している」「忠誠心がある」選手を輩出でき、ファンとクラブの一体感が高まるということなのだが、最後のは大事にせよ、最初の2つは正直よくわからない。まあ、そりゃそうなんだろうけど、みたいな。ただ何にせよ、輩出できたほうが良いに越したことは無い。
トップチームが強いほど、ユース上がりの選手がトップに定着するのは難しくなる。フランク・ランパードは「もし僕が今17歳だったら、チェルシーやシティのトップチームに上がるなんて到底無理だっただろうね」と発言している。
「もし自分の息子だったら、恐らくまずはチェルシーに入れて、8歳から15歳まで最高の教育を受けさせる。そして可能なら、そのあとは息子をもっと資源が無い、18歳でトップチームに定着できるようなクラブに移すよ」とも。
今の選手たちがトップチームに定着できなくとも、チェルシーとシティは金銭的に余裕がある限り、今の運営方針を続けると思われる。
最高の選手にできるだけ多くツバを付けておき、18歳になったらローンに出せばいい。彼らのうち1人2人でも戦力になれば儲けものだし、ならなければ売ればいい。
見込がありそうなら、買い戻し条項も付けられる。育成費用はFFPの対象から控除できる。止めるインセンティブは無い。
とはいえ、シティが(経営陣が言うように)世界的な人気クラブを目指すのであれば、自前で育てた選手をトップチームに組み入れていくことについて早めに取り組まなければならないと思われる。
ニワカと学ぶサイクルロードレース主要ライダー50人
ここ数年、サイクルロードレースにはまっている。
目が離しにくいサッカーと違って、ダラッとしながら眺めるにはあんなに良いスポーツは無いのだが、選手の役割と脚質(能力ね)が判らないと今一つ楽しみにくいスポーツであることも確かであろう。
ということで、ここはひとつにわかの私が次のにわかのために、ここ数年で仕入れた知識を皆さんに披露したいと思う。スポーツ自体の特徴を解説するサイトは山ほどあるので、今回は選手名鑑っぽいことをしたい。
このスポーツは順位やら何やらに応じて個人にポイントが付くので、過去3年間の上位50人を選んでみた。有名選手でも多数リストから抜けているが、手始めに憶える分には適当な基準ではなかろうか。
※ちなみに、以下よく出てくる「TDF」とはツールドフランスを指す。
選手名/出身国/脚質/所属チーム
◆50位 トニー・マルティン ドイツ TTスペシャリスト エティックス・クイックステップ
世界選手権のTT部門を3回制している、現代ロードレース界におけるTT第一人者の1人。カンチェラーラがよりクラシック寄りにシフトした後は、実質的に世界最強のクロノマンとして君臨している。
元々総合系の選手だったらしくそこそこ登れる上、逃げ切りに加えてアタックも可能。TDFでは殆ど1人TTのような超長距離逃げや、終盤でのアタックなど、TT以外のステージでも勝っている。エラの張った顔とデカイ口が特徴。
◆49位 マーク・カヴェンディッシュ イギリス スプリンター エティックス・クイックステップ
人呼んでマンクス・ミサイル。オートレースで有名なマン島出身だからマンクス。2005~2012年頃までは文句なしに世界最強のスプリンターであり、ミラノ〜サンレモ、グランツール全てのポイント賞、平坦基調の世界選手権と、スプリンターが取るべきタイトルは全部取っている。TDFでは合計26勝、ジロとブエルタを合わせるとグランツールで合計44勝しているという怪物である。あるが、最近は少々衰え気味で、キッテルやグライペルと比べると存在感が薄く、来年はどこかに移籍するという噂も。ピュアッピュアなスプリンターなので、坂は全然登れない。
スプリンターの割にはとても小さい。そしてよく拗ねる。最近も「ブエルタは年々アホらしくなってきてる(訳:山ばっかじゃねーか勘弁しろよ平地増やして下さいお願いします)」と発言してちょっとした話題になった。
◆48位 ミケーレ・スカルポーニ イタリア クライマー アスタナ
ジロで総合優勝1回、4位3回の実績を持つおっさんクライマー。まあジロの優勝は、コンタドールが失格になったからだが。
頭髪が物悲しさを感じさせる。ミラノ〜サンレモで6位に入ったこともあり、アタックの力もそこそこ。現在はアスタナでニーバリ王の家臣を務めつつ、若手の育成も期待されているようだ。
◆47位 トニー・ギャロパン フランス パンチャー ロット・ソウダル
フランス期待の若手・・・というには大分年齢もいってしまったが、TDFでマイヨ・ジョーヌを1日着たり、世界選手権で6位に入ったりと力はある。
総合はきついが、スプリントのチームなので余り求められてはいないようだ。嫁は元フランスチャンピオンだが、めっちゃ美人。ロードレース界の姫。
◆46位 ロベルト・ヘーシンク オランダ オールラウンダー ロットNL-ユンボ
将来のグランツール覇者に!というオランダの期待を若い頃から背負ってきたが、節目節目で不幸に見舞われ、結局スターになり切れなかった苦労人。2008年頃からブエルタで大活躍し、2010年のTDFでは4位に入ったが、同年に事故で父を亡くす。その後も不整脈で手術を受けたり、奥さんの出産が難儀したりと大変な人生を歩んでおり、その間はグランツールでの成績も低迷を続けていた。
今年のツールでは復活の6位。ファンタスティック4+バルベルデを除けば最上位と考えれば、素晴らしい成績と言えよう。ただし、こっから先に行く気もあんまりしないんだよね。
◆45位 ヤコブ・フールサン デンマーク オールラウンダー アスタナ
TDFで一回7位に入ったことがある実力派。ドーフィネやパリ〜ニースのようなステージレースでも大体上位に入ってくる。TTも結構速い。グランツールは厳しいが、アシストとしてはいてくれると大分嬉しい存在。というか、若い頃は総合リーダーとして期待されていた選手だったらしいのだが、シュレックのアシストをしたり、ニーバリのアシストをしたり、、、としているうちに三十路に入ってしまった。兄弟日本では「フグルサング」と呼ばれている。
◆44位 マイケル・マシューズ オーストラリア パンチャー オリカ・グリーンエッジ
若手のポップシンガーっぽい(バカっぽい)笑顔が特徴。いつ見ても歯が輝いている。あだ名は「Bling(キラ☆キラ)」。親父に付けられたらしい。親父、毒あるな。
スプリントのあるパンチャーといった風情で、アルデンヌ系クラシックでは優勝候補の一人。グランツールでも結構ステージを勝っている。
◆43位 アンドリュー・タランスキー アメリカ オールラウンダー キャノンデール・ガーミン
2014年のドーフィネで総合優勝し、グランツールでもトップ10が2回。タメのヴァンガーデレンとともに、アメリカ人としてはグランツール制覇に最も近い位置にいる。まあ優勝できそうかは置いといて。2日連続で落車し、ボロボロになりながら32分遅れでゴールしてたりして、根性は異様にある。チームメートのヘシェダル譲りなのだろうか。
◆42位 セップ・ヴァンマルケ ベルギー クラシックスペシャリスト ロットNL-ユンボ
190cmの仏頂面。北のクラシックでは毎年上位に入ってきており、ボーネン、カンチェラーラ引退後のクラシックキング候補ではある。
まあその2人に比べると絶望的に華はないけど。彼に限らず、現代のオランダ人とかベルギー人有力ライダーというのは、ボーネンとジルベールを除いて、まあ押し並べて華は無い。実力派ということにしておきたい。
◆41位 カルロス・ベタンクール コロンビア クライマー AG2R
近頃めっぽう強いコロンビアの若手世代の1人。ジロで総合5位&ヤングライダー賞を獲ったかと思えばブエルタでどーしょもない成績だったり、コロンビアに帰省したっきりよくわからん理由で帰ってこなかったり、波が激しくて扱いづらいタイプ。
パリ〜ニース総合優勝経験も持っており、アルデンヌクラシックでも上位に入ってくる実力者なのだが。すでにAG2Rからは2015年をもって離脱が決定。
◆39位 アンドレ・グライペル ドイツ スプリンター ロット・ソウダル
カヴェンディッシュ、キッテルらと並ぶ、世界最強のスプリンターの1人。ひたすらにムッキムキなので、あだ名はゴリラ。フレームにもゴリラの絵。TDFの期間中に連載していたブログのタイトルもラ・ガゼット・デュ・ゴリーユ(ゴリラ新聞)。
どっちかというとゴリラと言うよりサイボーグと言うかロボット感があるのだが、その辺はヨーロッパ人との感性の違いだろうか。実績ではカヴェンディッシュに、近年の勢いではキッテルに劣っていたが、今年のTDFではステージ4勝と大活躍した。その2人と比べるとまだ上りに適応できる方で、春先のクラシックレースにもちょいちょい出てきては謎のアタックを見せたりする。
◆38位 セルヒオ・エナオ コロンビア クライマー チームスカイ
よくエナオ・モントーヤと呼ばれるコロンビア人。ロードレース界はスペインおよび南米系の名前をどう呼称するかについて未だにもてあましている節があり、第二(もしくは母方の)苗字も併せて呼ぶので、ウランウランとかアナコナゴメスとか、多少変なことになっている。素直にエナオ、ウラン、アナコナでええんや。
コロンビア人ライダーには割と多いのだが、高地出身のため素の状態で血液が(常人が)ドーピングした状態に近くなっているらしく、2014年にはそのせいでレースに出られない時期を過ごした不幸な人。登坂力は折り紙つきで、アルデンヌ系クラシックでは上位を伺う一人。まあスカイにいる限りは山岳アシストだろうが。見た目は何というか、「エナオどん」と呼びたくなる感じ。
◆37位 ベニャト・インチャウスティ スペイン オールラウンダー モビスター→スカイ
モビスターにてアレハンドロ・バルベルデ師匠の子分を務めるバスク人。コンタドール、バルベルデ、ホアキンの3巨頭に続く存在がいないと囁かれるスペインの中では、そこそこ若くて有能。
ジロ、ブエルタではトップ10入りの経験もあり、今年のジロでもバルベルデ、キンタナの2大エース不在の中、山岳賞争いに絡んでいた。キンタナが今後TDF制覇を狙う中で鍵になる存在・・・と思っていたら、スカイに移籍しよった。
◆36位 ティム・ウェレンス ベルギー クライマー ロット・ソウダル
ゴリラのアシスト陣の一人。1991年生まれとまだまだ若いが、ここ2年で急速に力を伸ばしている。
Wikipediaにはクライマーと書いてあるが、ベルギー人らしく逃げやアタック、坂道での抜けだしが得意な印象。今年のフレーシュ・ワロンヌではラスト数キロで抜け出し、あと600mまで粘っていた。
◆35位 ウィルコ・ケルデルマン オランダ オールラウンダー ロットNL-ユンボ
ヘーシンクとモレマがいまいちグランツールで勝てそうなところまで成長しないうちに、オランダの新星として台頭。2015年はTTのオランダチャンピオンにもなっている。
山にも平地にもそこそこ対応でき、2014年は弱冠23歳でジロ7位に入っている。ぱっと見はヘーシンクと全く見分けがつかないのが難点である。もみあげとか伸ばしてくれ。
◆34位 ジャン=クリストフ・ペロー フランス オールラウンダー AG2R
北京オリンピックのMTBで銀メダルを取った後、33歳でロードに転向。その前にはグランゼコールの国立応用科学研究所で修士号を取り、国家エンジニア(チョー難しいらしいよ)の資格も取って、今でも原発で有名なAREVAの社員らしい。そんで2014年にはTDF総合2位。波乱万丈の人生を送る38歳。
今年のツールではド派手な落車で左半身ずるむけ、ユニフォームの股間が破れてペローのペローがペロー状態という苦難も味わった。年齢的にこれ以上の伸び代は難しいだろうが、応援したくなるおっさんである。
◆33位 ティージェイ・ヴァンガーデレン アメリカ オールラウンダー BMC
押しも押されぬアメリカ最強のライダーであり、ニーバリ、コンタドール、フルーム、キンタナを指す世界最強の4人、「ファンタスティック4」に最も近い男と称されるBMCの総合系エース。
今年のTDFでは「ファンタスティック4とか言っちゃって、あれ、僕も入って良くない?ん?わかんないけど?わかんないけど?」みたいなことを言っており、実際に優勝を狙えそうな走りを見せていたのだが、発熱であえなくリタイアしてしまって残念無念であった。まだ若いので、今後もグランツールの総合争いには確実に絡んでくるはず。
◆32位 ヨン・イサギーレ スペイン オールラウンダー モビスター
兄のゴルカや、インチャウスティとともにバルベルデさんを支える子分3号。ジロのステージ優勝、ツール・ド・ポローニュ総合優勝に加え、国内選手権も制しており、次世代のオールラウンダーとして期待がかかる・・・が兄と一緒にスカイに行くという噂も。
ちなみにエナオのところで言ったように、ロードレース界ではスペイン人の名前をよく「ファミリーネーム+母方の苗字」で呼んでしまうので、Jsportsなんかでも「イサギレインサウスティ」と訳のわからない歯切れ良さで呼ばれるシーンが多々ある。口に出して言いたいスペイン人、イサギレインサウスティ。よさよいinアイスティー!みたいな。
◆31位 ズデニェク・シュティバル チェコ クラシックスペシャリスト エティックス・クイックステップ
シクロクロスの世界チャンピオンに3度輝いた、エティックスの主力の1人。膠着した終盤での鋭いアタックが持ち味で、スプリント力もそこそこある。もう30間近だが、今年はパリ~ルーベで2位、ストラーデ・ビアンケで優勝、ツールでもステージ優勝と勝てるところを見せており、ボーネンとカンチェラーラ後の新たなクラシック王になれる存在ではなかろうか。
◆30位 ニキ・テルプストラ オランダ クラシックスペシャリスト エティックス・クイックステップ
人呼んでオランダの逃げ番長。パリ~ルーベで優勝1回、3位1回、ロンド・ファン・フラーンデレンでも2位1回と、北のクラシックにはめっぽう強い、クラシックの第一人者。スプリント力は無いが、とにかく終盤での長めのアタックに強い。一方で逃げたはいいけどその後の判断が煮え切らず、結局優勝を逃すシーンもあったりして、この辺は長年トム・ボーネンという絶対的エースを奉じてきた影響かもしれない。
◆29位 ロマン・クロイツィゲル チェコ オールラウンダー ティンコフ・サクソ
バッソ、マイケル・ロジャーズ、ベンナーティと並ぶコンタドール4奉行の1人(勝手に呼んでる)。アムステル・ゴールドレースやツール・ド・ロマンディといった名のあるレースも制してきたオールラウンダーで、ジュニア時代はアンディ・シュレック、ヴィンチェンツォ・ニーバリのような後のグランツール勝者と競り合ってきたらしく、チームがチームならエースを任せられているであろう。伸び盛りの時期にドーピング疑惑で1年くらい出場できなかった(結局潔白が証明された)のは残念無念である。今年のジロではアスタナ勢にティンコフのアシスト陣がバラバラにされる中、一人山岳でコンタドールを支え続けていた。
◆28位 ダニエル・モレーノ スペイン クライマー カチューシャ
カチューシャのエースであるホアキン・ロドリゲスを長年支えてきた右腕。脚質もホアキンぽい感じで、長い山岳はちときついが、激坂にはめっぽう強い感じ。昔は山にも強かったのかもしれないが、最近見てる感じだと”ファンタスティック4”辺りと本格的に山で競うのはちときつそうである。それでもブエルタでステージ3勝、フレーシュ・ワロンヌでも優勝1回、アシストとしてはこれ以上ない成績。
◆27位 ロマン・バルデ フランス クライマー AG2R
プリクラで修正したかのような尖った顎とキラキラした目が特徴の優男。同い年のティボー・ピノと並んで長年TDF優勝者が出ていないフランスの期待の星なのだが、二人とも勝負弱い感がいかにもフランスっぽくて宜しい。今年のTDFではピノと二人で抜け出し、最後のスプリントに向けて延々と二人で牽制・・・していたら後ろから飛んできたスティーヴ・カミングスに優勝をかっさらわれる大失態。それでもステージ1勝とスーパー敢闘賞をもらい、2年連続でトップ10にも入った。平地も山も、トップレベルと競るにはまだ物足りないが、期待はさせてくれる。
◆26位 フィリップ・ジルベール ベルギー パンチャー BMC
「パンチャー」の代名詞みたいな元世界チャンピオン。2011年にはアルデンヌクラシック3つを全て勝ち、翌年にはUCI世界ランキング1位。グランツールでも通算でステージ9勝しており、好調時はマジで鬼のように強い。激坂での登坂力が持ち味だが、スプリントや終盤でのアタックなどレパートリーはさすがに広く、本格的な山岳やド平地でなければ大体優勝が狙えるんではなかろうか。かつての最終局面でのヘタレっぷりから日本では「ジルベール黄金のタレ」と名付けられているが、最近は絶対的なアタック力が落ちた代わりに、判りやすいタレっぷりも無くなっている気がする。
◆25位 ティボー・ピノ フランス クライマー FDJ
バルデと並ぶフランス期待の星。2014年のTDFでは3位&新人賞を獲得し、2015年は更なる飛躍が期待されたが、序盤から思いっきり遅れて早々に表彰台への望みが無くなり、口を開けばぐちぐち言っていたので「キャプテン・ネガティブ」とあだ名されてしまったとかしまわないとか。平地対応もちと不安だが、何より下りがごっついヘタクソなのが勿体ない。もう、めっちゃ遅いの。転ぶし。しかし考えてみれば90km/hでアルプスを下れるサガンみたいなのが異常なのであって、普通人類の身体は山をあんな速度で下るようにはできていない。
散々だった今年のTDFだが、最後にラルプ・デュエズ(ごっつい険しい山岳)でど根性の逃げからステージ優勝。なんとか面目を保った。
◆24位 ゲラント・トーマス イギリス(ウェールズ) オールラウンダー チームスカイ
トラックとロードの兼用選手。トラックではチーム追い抜きで北京、ロンドンと五輪を2度制覇。ロードではフルームの忠実なアシストとして、横風にブッ飛ばされて畑に落ちたり、下り坂で突き飛ばされて鉄柱に頭ぶつけたりしながら頑張っている。
パリ〜ルーベのジュニア部門を制したり、E3ハーレルベーケで優勝したり、ヘント
ウェヴェルヘムで表彰台に上がったり、クラシックには元々強かったのだが、今年のTDFでは誰もが驚く脅威の山岳対応力を披露。そのうちグランツールの総合が狙えるかもしれない。
ちなみに鉄柱に頭ぶつけたときは、医者の「あなたの名前は?」という確認に「クリス・フルーム」と答えたりする、ジョーク精神のある男。
◆23位 サイモン・ゲランス オーストラリア パンチャー オリカ・グリーンエッジ
ジルベールらと並ぶパンチャー界の第一人者。リエージュ〜バストーニュ~リエージュ、ミラノ〜サンレモという二つのモニュメント制覇に加え、2014年には世界選手権でも2位に入った。
坂にも強いしスプリントもできる。謎の落車癖が惜しいところ。ジャガイモみたいな頭をしている。
◆22位 ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ イタリア クライマー AG2R
トッポジージョ感漂う愛くるしい名前の、めっちゃちっさいおっさん。ジロでのステージ優勝1回、トップ10入り4回の名クライマー。今年のジロでは下り坂で顔面からクラッシュし、大流血。ピクリとも動かなかったので私を含む観客はもしものことがあったらと大変動揺してしまった。
幸いにも顔の裂傷以外は特に大事には至らず、顔もさほど大きな傷は残っていないようで、ブエルタには出場していた(よね?)。残りの選手人生はそう長くないかもしれないが、来年も元気な姿を期待したい。
◆21位 トム・ドゥムラン オランダ TTスペシャリスト ジャイアント・アルペシン
TOKIOの長瀬と松山ケンイチを合成して叩き潰した感じのオランダ人で、花の90年世代の1人。モササウルスの化石で有名なマーストリヒトの出身である。2014年の世界選手権個人TTで3位に入り、カンチェラーラ、マルティン、ウィギンスらに次ぐ次世代のTT王者に一番近いと思われていたが、今年のジロで総合ライダーとして大爆発。実質最終ステージの山岳で崩れるまでは1位をキープし、あわや優勝かという騒ぎになった。本格的にグランツールで総合が争えるか、来年以降に期待。ただし最近のグランツールはスプリントを狙うチームと総合を狙うチームで思いっきりメンバー構成が異なるので、キッテル、デーゲンコルプという2大スプリンターを抱えるジャイアントでやっていくのはちと難しい気もする。クライマーが揃う母国のロットNLに移籍した方が良いんではないだろうか。
◆20位 ラファウ・マイカ ポーランド クライマー ティンコフ・サクソ
コンタドールを支える有力アシストの1人。2013年初出場のジロで7位に入り、翌年のツールでは山岳賞を獲得。今年のブエルタではティンコフのエースとして臨み、あまり得意でないTTも無難にこなして3位に入った。
キンタナやロドリゲスのように急激なペースアップで相手を叩き潰すというよりは、じわじわ自分のペースで差を縮めていくタイプっぽい。コンタドールが来年限りでの引退を表明しているため、ティンコフの次期総合エースとして期待は大きい。JSportsのCMでは、「サイクゥルゥ、ロードレース、ミロナァラァ、Jsports」というじわじわくる棒読みを披露。
◆19位 リゴベルト・ウラン コロンビア オールラウンダー エティックス・クイックステップ→キャノンデール・ガーミン
キンタナに次ぐ、コロンビア旋風第2の男。山にもTTにも強く、2013年、14年と連続してジロで準優勝。クラシックに特化してきた名門エティックスがグランツールの総合にも殴り込みをかける上でエースとして期待されていたが、今年はジロで14位、ツールで42位と大失敗に終わった。ぶっちゃけまともな山岳アシストがいない中では無理じゃねーのという気もするが、GMのルフェーヴルは「まあウランじゃジロの2位が限界かもね」と冷たく、さっさと後任を探し始めていたため、ウラン本人もキャノンデールへの移籍と相成った。
正義感が強いのか、他人に口出ししないではいられない性分なのか、今年のジロでは優勝への賭けよりも確実な表彰台を狙ってきたアスタナのアルーとランダにブチ切れ、走りながら延々と文句を言い続けていた。長い後ろ髪が特徴なので、ヘルメットをかぶっていてもすぐわかる。
◆18位 シモン・シュピラク スロヴェニア オールラウンダー カチューシャ
え、こんな上?いや、私がニワカなのが悪いんだが、あんまり日本で名前を聞かないなという印象。ワンデーや短めのステージレースに強く、ツール・ド・ロマンディで優勝1回2位2回、ツール・ド・スイスで優勝1回。今年のツール・ド・スイスではクイーンステージ(一番高い山)で3位に入っており、山もだいぶ対応できるようだ。あとTTも結構いける。グランツールやモニュメントは現状厳しそうだが、このままUCIワールドツアーランクのステージレースで上位に入り続けるというのも、また一つの道ではある。
◆17位 ミハウ・クフィヤトコフスキ ポーランド オールラウンダー エティックス・クイックステップ→スカイ
日本では「クビアトコウスキー」と呼ばれることが多い、現世界チャンピオン。「Wi」を「ビ」(ヴィ)と読むなら、次のWはフと読まないと理屈が通らない気がするが。「Kwiat」というのが日本語で言うところの「花」なので、ネット上ではお花ちゃんとか呼ばれたりもする。まだ25歳だがストラーデ・ビアンケ、アムステル・ゴールドレース、世界選手権を制しており、パンチャー寄りのオールラウンダーとして90年世代のトップランナーの1人。坂でのパンチ力はあのバルベルデさんとも張り合えるレベルである。
何でもこなせるという意味ではオールラウンダーではあるのだが、現状本格的な山はちょっと厳しいんじゃね?という感じで、エティックスGMのルフェーヴルは「ミハウがツール?あー無理無理!」とここでもそっけなかったが、まだ若いので将来的にはグランツールの表彰台も狙えるかもしれない。
◆16位 ボウク・モレマ オランダ オールラウンダー トレックファクトリー・レーシング
ヘーシンクが伸び悩んでいるうちに登場したオランダ人総合ライダー・・・だったのだが、彼もまた伸び悩んでしまった。
2011年のブエルタで4位に入ったが、その後はTDFで6位、10位、7位と、トップ10には入るのだが、表彰台以上にはどうにも進めなくなっている。TTもそこそこ速いし山も登れるんだけどねえ・・・伝説的ライダー、ベルナール・イノー氏にも「モレマはぶっちゃけ大したことない」とか言われてしまったり。
◆15位 ファビオ・アルー イタリア オールラウンダー アスタナ
今年のブエルタで総合優勝。花の90年世代ではキンタナに次ぐグランツール制覇を成し遂げ、ロードレース界の未来を担うと期待される若手。既にジロでも表彰台に2回上っており、来年以降はツールでも見られるかも。
アホみたいに動きがダイナミックなのが特徴で、好調時は飛び跳ねるようなフォームで山岳をクリアしていく。外見上のポイントはかつてのロビー・ファウラーを思い出させる鼻孔拡張テープと、死ぬほどデカい口。苦しい時は口がかまぼこ型になるのですぐばれる。
◆14位 ヨン・デーゲンコルプ ドイツ スプリンター ジャイアント・アルペシン
笑顔と口ひげがトレードマークのスプリンター。同じチームのキッテルに比べ、平坦スプリントでは劣るものの、石畳や坂への対応、独走力で大きく優る。
パリ〜ツール、ヘント〜ウェヴェルヘムといった名のあるワンデーレースに加え、今年はスプリンターの夢ことミラノ〜サンレモに、「クラシックの女王」パリ〜ルーベも制して、クラシック界の第一人者に上りつめた。また、ブエルタには相性が良く、すでにステージ通算10勝。ブエルタは山ばっかりなので他のスプリンターが嫌がるのだが、そこにある程度対応できるからと思われる。
◆13位 リッチー・ポート オーストラリア オールラウンダー スカイ→BMCレーシング
フルームの右腕として2回のTDF制覇を支えた名アシスト。アシストとしては爆裂に登れる上、TTも強い。今年のTDFではたび重なる攻撃でフルームがついに決壊寸前、という絶妙のタイミングで助けに飛んできており、相手にするとほんとうっとうしい。
しかしグランツールでエースとして走るとなぜかダメダメ。今年はシーズン序盤のステージレースで勝ちまくり、押しも押されぬエースとしてジロに臨んだが大失敗した。エースとして走りたい!ということでBMCに移籍が決まったが、アメリカのチームだし、ヴァンガーデレンいるし、大丈夫だろうか。ちなみにインタビューでもエースのときは塩らしいのに、アシストのときは「強過ぎてすいませんねぇ〜」とか言ったり、わりと調子こくタイプ。
◆12位 ファビアン・カンチェッラーラ スイス TTスペシャリスト/クラシック・スペシャリスト トレックファクトリー・レーシング
「スペシャリスト」が2つも並んだら矛盾しとるがな、と言われそうだが、カンチェくらいになるとそれも許される。怒り心党でも取り上げられて、日本での知名度も高いカリスマ。
キャリア序盤から中盤はTT星からやってきたTT星人として地球を荒らしまくり、世界選手権のTT優勝を4回制覇。中盤からはクラシック星人に生まれ変わり、パリ〜ルーベを3回、ロンド・ファン・フラーンデレンを4回、さらにはミラノ〜サンレモも制してしまった。2000年代中盤から2010年代初頭の北のクラシックはほとんどカンチェッラーラとボーネンの二人相撲であったとか。
とにかくパワーが半端無いので、5秒離されたら1人では絶対追いつけず、4~5人程度ならまとめて相手が出来てしまうくらい。TDFでもステージ優勝8回を誇り、非優勝者のマイヨジョーヌ着用日数記録を持っている。というくらいの超人だが、さすがに近年は衰えも見られており、来年で引退するという噂も。
◆11位 グレッフ・ヴァンアーヴェルマート ベルギー クラシックスペシャリスト/パンチャー BMCレーシング
20台前半でブエルタのポイント賞を獲ってはいたのだが、脚光を浴び出したのは最近っぽい、世界屈指のパンチャー。ここ2年はパリ〜ルーベ、ロンドで表彰台に上り、TDFでも念願の初ステージ制覇を成し遂げた。上り坂でのパンチ力と終盤のアタックに優れるが、多少勇気があり過ぎるというか、静観でよくない?というタイミングでも無理目にアタックを仕掛けて結局2位、という場面が多い2位ハンター。今日の世界選手権では優勝候補に名前が挙がっているが果たして・・・。
現在のベルギー人選手の中ではジルベールと並ぶ有力選手なのだが、ジルベール、ボーネンの2人に華がありすぎて地味な印象は拭えないのがちと可哀想だなと思う。
◆10位 ダニエル・マーティン アイルランド パンチャー キャノンデール・ガーミン→エティックス・クイックステップ
すっごい眠たそうな目が特徴。リエージュ〜バストーニュ〜リエージュとジロ・ディ・ロンバルディアという二つのモニュメントを制した名パンチャー。上り坂でのアタックにはめちゃめちゃ強い。グランツールでも1回7位に入ったことはあるのだが、どっちかというとステージ優勝を狙うタイプ。来年はエティックスに移籍ということで、アルデンヌ系クラシックでエースを担うことが期待される。
◆9位 アレクサンデル・クリストフ ノルウェー スプリンター カチューシャ
デーゲンコルプと並ぶクラシック系スプリンターとして才能を開花させた北の偉丈夫(このフレーズ使ってみたかった)。2014年のミラノ〜サンレモに始まり、2015年はツアー・オブ・オマーンやらパリ〜ニースやら勝ちに勝ちまくり、現時点でUCIワールドツアー最多勝。さらにロンド・ファン・フラーンデレンを制覇してモニュメント2勝目を加えた。モニュメントっていうのは、ワンデーレースの最高峰ね(5つある)
ノルウェー人には多いのだが、こいつも割と上れるスプリンターである。その分平地でのピュアなスプリントはキッテルたちトップクラスにやや劣る。
◆8位 ペテル・サガン スロヴァキア スプリンター/パンチャー ティンコフ・サクソ
2012年、初出場のTDFで22歳にしていきなりステージ3勝とポイント賞を獲得。そのまま4年連続でポイント賞を獲得している万能スプリンター。本格的な山岳クライム以外はとにかく何でもできる。最近は何をやっても2位止まりなのにポイント賞はとれちゃう(上れるから)ので、ステージ優勝が無いのにポイント賞ってのもねえ・・と批判されていたが、今年のTDFではめちゃめちゃに逃げまくるわ(スプリンターは普通逃げません)、山は登るわ(普通登りません)、独走を始めたプラサを誰もおっかけないのに業を煮やして時速90kmで山を下るわの大活躍で、もうここに至っては批判はできないわというレベルに達してしまった。
表彰式でポディウムガールの尻を揉んだり、ウィリーでゴールしたり、中間スプリントを取りに行ったスプリンター仲間に「このまま逃げよーぜ」と冗談かましたり(人数的にも脚質的にも絶対に逃げ切れないし逃げる気もないのであり得ない)、1大会に1回は必ずジョークを挟まないと気が済まない男。体格もキャリアも顔もイブラヒモヴィッチっぽいのだが、性格はお人よしらしい。
(追記)2015年の世界選手権優勝。「サガンは将来どんな選手になるのか?(グランツールの総合を目指すのか?)」というテーマがよく議論になる選手だが、25歳にして自転車界最高の栄冠の1つをまた手に入れてしまった。
◆7位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ イタリア オールラウンダー アスタナ
TDF、ジロ、ブエルタの全てを制したイタリアのエースであり、「ファンタスティック4」の一人に数えられる男。2014年のTDFではコンタドール、フルームという最大のライバルがリタイアしたこともあるが、2位以下に圧倒的な差をつけて優勝した。登坂力ではフルーム、キンタナに僅かに劣るが、下り坂がめっちゃ速い。
今年のジロでは落車して遅れたところをチームカーに掴まって戻ろうとし、ばれてあえなく失格。その姿はニーバリワープと名が付いたとか。その後も「チームが僕を待ってくれなかった」「みんなやってる」「僕はあの絶望的な状況から勇敢にもたった一人で立ち向かおうと・・・!」みたいなコメントを出しまくり、全く反省していないところを見せ付けた。しかも第2エースであり、子分格だったアルーが総合優勝。さぞ気まずかろうと思われる。
◆6位 ルイ・コスタ ポルトガル オールラウンダー ランプレ・メリダ
2013年に世界選手権を制してホアキンを大泣きさせた男。ツール・ド・スイスを3連覇したり、TDFでもステージ優勝を3度達成したりとかなりの有力者なのだが、私のようなにわかが注目する有名レースで目立たないのでちょっと影が薄い気もする。
短めのステージレースでは優勝候補に挙げられる存在だが、もうさして若くなく、この先どういう方向に進むのであろうか。いや、まあ世界選に勝ってる時点で相当なキャリアなんだけど。
◆5位 ナイロ・キンターナ コロンビア クライマー モビスター
「ファンタスティック4」の中でも山岳での登坂力は最強と目されるコロンビア人。見た目の圧倒的村育ち感から、日本語のネット上では「村長」と呼ばれている。またお母さんも村っぽいんだこれが。全然知らないので失礼なのだが、貧困に耐えてプロとして成功し、お母さんに家を買ってあげた感が半端無い。
とにかく山に強く、他の選手がペースを落とすような急坂でもアタックを繰り返せる。ファン何とか4の中でも、山岳最強はキンタナ、というのが世界的な認識のようだ。
すでにジロでは優勝1回、TDFでは2位2回、ブエルタでも4位に入っており、アルーとともに次世代のグランツールをリードしていく存在と思われる。
◆4位 アルベルト・コンタドール スペイン オールラウンダー ティンコフ・サクソ
ぶっとい眉毛がトレードマーク。TDF2回、ジロ2回、ブエルタを3回制しており、実績で言えば世界最高と言ってよい存在。もちろんファンタスティック4の一人である。
山岳ではダンシング(いわゆる立ち漕ぎ)でグイッグイ登っていく上、TTもまじ強。今年のジロではトラブルに付け込んで差を広げたアスタナ勢を一人で粉砕し、アスタナの若い衆(アルーとランダ)に「お前ら調子乗んなよ」というメッセージを強烈に叩きつけた。
勝った時はピストルをバキューン!とするポーズがお気に入りで、全然似合ってないという声も気にせずやり続けている。あれ、引退までやるんだろうか。
◆3位 クリス・フルーム イギリス オールラウンダー スカイ
今年のTDF王者であり、ファンタスティック4最後の一人。下を見ながらシャカシャカ走る変わったフォームだが、登坂力はとにかく強烈。インターバル的な登りでのスプリントにも強い上、一回引き離してもゾンビのように復活してくる。その上TTにも強く、感情の薄い顔と相まって憎たらしいことこの上ない。
性格的にも負けん気が強く、アシスト時代にエースのウィギンズに「お前おっせえんだよ俺にエース譲れ」とぶち上げたことがある。あまりの強さからフランスでは人気が無く、今年のTDFでは観客から尿をひっかけられたりしていた。さすがにそれは酷過ぎるわ。
◆2位 ホアキン・ロドリゲス スペイン クライマー/パンチャー カチューシャ
激坂めちゃめちゃ上りおじさん。小さい。30を過ぎてから坂のスペシャリストとして開花し、グランツールでのステージ優勝14回、ジロ・ディ・ロンバルディア2回、フレーシュ・ワロンヌ1回、UCIワールドツアーのポイントランキングでも1位が3回と勝ちまくっている。グランツールで勝つにはTTがさほど速くなく、長い山への対応力もやや不足している感があるが、毎年確実にポイントは取ってくる。今年のTDFではとあるステージのコースデザインを任されたが、余りにも山岳がきつ過ぎて自分も対応できなかったというお茶目なおじさん。
◆1位 アレハンドロ・バルベルデ スペイン オールラウンダー モビスター
人呼んで「エル・インバティド(打倒不可能)」。またの名を「バルベルデさん」「バルベルデ師匠」「バ何とかさん」。このあだ名だけで大体キャラがわかりそうだが、めちゃめちゃ強くて年俸も貰っている割に、ポカミスが多い愛すべき男。これまでの罪状としては、
「レインジャケットをチームカーまで返しに行っている間に集団に置いていかれる」
「終盤ホアキン&自分vsニーバリ(vsルイ・コスタ)の状況でニーバリを警戒し過ぎ、ルイ・コスタのアタックを放置してみすみす惨敗」
「山で『もう俺は限界だ』と言い続け、散々若手のピノに前を牽かせ続けて最後の30mでフル加速して先着」などセコいエピソードが並ぶ。
とはいえクラシックからグランツールまで1年を通して活躍できる引き出しの多さとタフさは群を抜いており、とくに総合系ライダーとしては圧倒的にスプリント力があるため、アルデンヌ系クラシックでは最強に近い存在。
御年35歳だが、今年のTDFでもエースのキンタナをアシストしてるんだかしてないんだかよくわからない自由な動きで大会を盛り上げた。
2015/16夏 移籍に関する所感 その2 マンチェスター・シティ
市場が開く前、私は今夏の移籍に求めることとして、以下の3点を上げた。
1.ユース育ちの登用を含めた若返り、
2.新たな主力候補(候補で良い)になり得る大物の獲得、
3.大物外国人ベテランの放出
その背景にあったのは、これまた以下のような考えである。
収益基盤が安定し始めたシティだが、新興クラブゆえ、ピッチ内での成績下降が収入に与える影響は大きい。現在の主力に限界が見えたからには、短期的には戦力が落ちても、3~5年先を見据えた戦力の刷新が優先であるべきだ。
また、FFPが導入されて以降、ロビーニョ式の獲得連発は難しくなった。この状況において現在のようにユース育ちを二束三文で手放し、HG適用選手をバカ高いプレミアムを載せて買う行為を繰り返していると、主力の外国人選手にかける投資が圧迫される。別にHGの主力を揃える必要はないが、戦力を保つためにはある程度自前ないしは安い選手でHGを満たさなくてはならないのだ。
前にも言ったように、シティはまだサステナブルな事業モデルを確立できていない。
営業キャッシュフローはプラス、つまり試合をして、お金を稼いで、給料を払って、というサッカークラブの根本では利益を生み出せるようになった(厳密に言えば、戻った)けど、毎年多額の費用を選手獲得に費やしているから、フリーキャッシュフローはマイナスで、オーナーからの増資で帳尻を合わせている。
だから、補強に投じる費用を落ち着かせつつ、衰えが見えてきたベテラン選手を入れ替えていく。
CL出場権を失うことは絶対に避けなければならないが、一時的に優勝から遠ざかっても、スカッドの再編成を優先していくべきだと思っていた。
結果としては、CBにオタメンディ、CMFにデルフ、AMFにスターリング、デブライネ、パトリック・ロバーツが加わり、FWにはケレチ・イヘアナチョが昇格。
一方で、CBのデナイエルとレキク、CMFのランパードとヌチャム、AMFのミルナー、ロニー・ロペス、FWのジェコとヨヴェティッチ、ホセ・ポソが放出された。
うち、デナイエルとジェコ、ヨヴェティッチはローンで、レキクとヌチャムは買い戻し条項付き。
「若返り」と「主力候補」については、ほぼ希望した通り。活躍するかどうかは別にして、25歳以下の攻撃的MFが入ったバスケットを漁ったとして、出てきたのがデブライネとスターリングというのは、さほど悪くない結果だろう。ジェコティッチコンビが18歳のイヘアナチョに置き換わり、20台中盤のデルフも加わった。
一方で、ベテランの放出とアカデミー組の登用は思ったより進まなかった。ヤヤ・トゥレ、ナスリ、デミチェリス、コラロフらはそろそろ売り時だと思っていたのだが、チームの根幹には手を付けず、競争力を維持する方を選んだようだ。先に述べた願望が満たされるなら、個人的には4位以内なら納得しないでもないが、と思っていたが、この戦力で優勝以外でもOKですということはさすがにお天道様が許すまい。
で。問題はアカデミー組である。6月の初旬、ロニー・ロペス、デナイエル、イヘアナチョの3人がトップチームに正式昇格することが発表され、私のみならずシティファン界隈は沸いていた。
3人ともアカデミー育ちである上、ロペスとデナイエルはすでにトップレベルで実績を残している。アブダビ資本の参入以降立ち消えになっていた、アカデミーからのレギュラー候補がようやく出てきた・・・と思ったのだが、先に書いた通りデナイエルはオタメンディの加入を受けてガラタサライへローン。ロペスはモナコに完全移籍で売却。
ついでに言えば、PSVでオランダリーグを制覇していたカリム・レキクも、買い戻し条項付きでマルセイユに放出されてしまった。
これは割とショッキングな出来事だ。デナイエルもロペスも、ついでに言えばレキクも、恐らく今すぐシティでレギュラーを担当するに相応しいレベルには無いだろう。多分。
いくら有望でも、コンパニやオタメンディに勝てる20歳のCBなぞいないし、同様にシルバやナスリ、ヘスス・ナバス(批判されてばっかりだが、世界チャンピオンであり欧州チャンピオンでもある)の間に割り込むことは相当難しい。その意味で言えば、ローンだろうが買い戻し条項付きだろうが、放出してしまうのも判らなくは無い。各ポジションの4番手としてチームに置いておくよりも、そっちの方が出場機会は多いだろう。
一方で、彼らのような選手ですらシティで出場機会を得られないとすれば、アカデミー出身者がチームで再び活躍するのを見る日は来るのだろうか?
デナイエルはスコティッシュ・プレミアの最優秀若手選手かつベストイレブンで、ベルギー代表の常連であり、フランス代表との試合でスタメンを務めたこともある。ロニー・ロペスはU-20ワールドカップでベスト8に入ったポルトガル代表の10番で、昨シーズンはリールでレギュラーだった。レキクはすでにプロで70試合近い経験があり、オランダリーグチャンピオンでもある。20歳の時点で、彼ら3人より有能で、「ローンでの修行」が上手く機能してきた選手はそうそう見つからない。
若手の起用にはある種の諦めが必要だ。キャリアのピークにある選手を外部から買ってきた方が、若手を抜擢するよりも、短期的な戦力としては高まる。時間に対して費用を払っているのだから、当然だ。ある程度の能力不足、経験不足、不安定さを受け入れた上で使ってやらねばならない。つまり使ってみなけりゃ伸びもしないわけで、その点でアーセナルはもちろん、リヴァプールもきっちりチャレンジをしているクラブだ。ここ3年でスターリングを育て、今シーズンも18歳のゴメスをスタメンに抜擢している。育成という観点では素晴らしい勇気である。
チェルシーはその点でシティと同じ道にいる、というか経営体制の変化のタイミング的に、シティがチェルシーの戦略をちょうど5年くらい遅れで追っている。チェルシーのアカデミーからレギュラーに定着した選手は20年近く前のジョン・テリーが最後だ。チェルシーのユースチームはイングランド最強だが、ルーベン・ロフタス=チークがわずかに使われている程度で、トップチームに引き上げられる選手はほとんどいない。
そしてユースチーム以外にもプールを広げておくために、有望な選手はとりあえず契約してローンに出す。トップチームに昇格したという意味ではクルトワ以外に成功例は無いが、目が出なければ適当なタイミングで売っぱらえば良い。シティも状況はそっくりで、アカデミー出身者でレギュラーを獲ったのは10年前のマイカ・リチャーズが最後。世界中から有望な若手選手を集めてくるからユースチームは結構強い(2015年のFAユースカップ決勝は、チェルシーとシティの対戦だった)が、そのほぼ全てが適当なタイミングで放出される。しかも二束三文で。
チェルシーとシティには、その他の3クラブ(まんゆ、アーセナル、リヴァプール)よりも“余裕が無い”と言えるかもしれない。もちろんチェルシーとシティの状況は違うが、どちらも海外の大富豪が資本を投下することで急激にピッチ内外のプレゼンスを拡大したクラブで、まあ他の3つよりブランドは無いというのが一般的な認識であろう。チェルシーはもう、匹敵するというか、超えているかもしれないが、少なくともシティについてはそうだ。だから短期的なピッチ内での成績が重視され、アカデミー出身の若手に時間を与えている余裕が無いという点はあるかもしれない。
もう一つ、そして恐らくより大きい理由は、アカデミーからトップチームに選手を輩出するインセンティブが、ぶっちゃけほとんど無いことだ。育成に関する費用*1(Youth Development costs)はFFPの審査対象から除外できることになっている から、FFPの審査対象値上は、アカデミーは維持費の掛からないキャッシュ・マシーンになる。むしろトップチームのベンチに置いておいたりしたら維持費だけがかかってしまう。
それに、アカデミー出身者がトップチームにいなくとも、致命的に人気が無くなるわけではない。そりゃイメージは良くなるだろうし、地域コミュニティとの結びつきが強まるのかもしれないし、クラブのフィロソフィだか何だかが強化されたりするのかもしれないが、それが本質的に脅威であれば、クラブ側も躍起になってアカデミー出身者をトップチームに配置するはずだ。
個人的には
この状況において現在のようにユース育ちを二束三文で手放し、HG適用選手をバカ高いプレミアムを載せて買う行為を繰り返していると、主力の外国人選手にかける投資が圧迫される。別にHGの主力を揃える必要はないが、戦力を保つためにはある程度自前ないしは安い選手でHGを満たさなくてはならないのだ。
という点、つまり財政面(だけ)が心配なのだが、暫くはトップラインが拡大し続けるであろうことを考えると、アカデミー出身者がトップチームで活躍するのは5年10年見れないかもしれない。
CL出場権を逃すシーズンが来ないとも限らないから、育てていくべきだと思うけど・・・。
*1:もしかしたら育成部門の人件費もまとめてこの費用に計上できるかもしれない