2014/15 プレミアリーグ前半戦レビュー「それでいいのか二人旅」vol.3
■9位 スウォンジー 6勝4分6敗 勝点22 得点21 失点19
年を追うごとに従来の意地でもポゼッションスタイルが薄れてきて今年はまずいかも、と思っていたら何のことはない、普通に速攻できるメンバーが揃って速攻で点が取れるチームになっていた。
縦パス速射砲キ・ソンヨンと帰ってきたシグルズソンがガシガシ相手の隙間を狙い、特攻野郎ボニーとモンテーロが絶えず相手に挑みまくる攻撃は、嵌れば破壊力十分。ラウトリッジ、ダイアーのウィング勢もそれなりに点を取りチームに貢献している。ちなみにここまでの16試合で「中央からの攻撃率」「中央からのシュート率」はいずれもスワンズがリーグ1位。後者は実にシュートの77%が中央のゾーンからという縦志向である。(2位のアーセナルでも70%)
キ・ソンヨンとかブリットンとかシェルヴィーとか起用しているだけに守備面が強固とは言い難いが、縦志向が強いだけにボールロスト時にプレスが掛かりやすそうで、この辺りも若手指揮官モンク侮れずというところ。
エースのボニーが冬の市場で抜かれると厳しいが、そうでなければトップ10、運が良ければUEFAカップ圏内も狙えるかも。
<Pick Up>キ・ソンヨン
めちゃめちゃダイレクトで縦パス通すマン。前回のアジアカップ以来日本では蛇蝎のごとくの嫌われぶりだが、中盤センターとしては間違いなくアジア屈指の選手である。ちなみに守備は軽い。
■8位 ニューカッスル 6勝5分5敗 18得点 22失点 勝点23
首になりそうになると調子が上がるのがパーデューの真骨頂。
シーズン当初はリヴィエール、カベッラら新加入組を重宝してちょっとおしゃれ目の速攻を志向していたがさっぱり結果が出ず。
10月中盤からシソコを中心にグフラン、アミオビ弟ら「速い」か「デカい」かどっちかの選手でぐりぐり押し込むタイプのサッカーにシフトして、6連勝で一気にトップ10に浮上してきた。大体全員が「迷ったらGOだ!」のプレー選択で突っ込んでくる様はプレミアならでは。これでFWが一時期のバやシセ並みに当たるとトップ5が見えてくるんだけどなあ。
ただここのフロントは大当たりを2,3人連続で引いたと思ったらいきなりとんでもない外れを5,6人、いや7,8人は連続で連れてくるワンダーランドなので、あまり期待はできない。
<Pick Up>ダイナマイトシソコ
「1,2,3、シッソコ!シッソコ!」がキャッチフレーズの謎の覆面プロレスラー。プレーの判断はだいたい「身体能力で何とかする」の1択である。
先日のチェルシー戦でもカウンターから大きなストライドで持ち込んでシセの2ゴールを誘発。
サイドに置いてもボランチに置いても困るタイプの人材なので、トップ下でガンガン特攻させとくのは賢い。
ちなみにダイナマイトネタは1カ月ほど前からTwitterで呟いているのだが全く反応が無いのでそろそろ諦めようと思う。うん。
■7位 トッテナム 7勝3分6敗 勝点24 20得点 22失点
真面目に良いサッカーに取り組んで真面目に苦しんでいるのでとても面白くないです。もっと・・・もっとエキセントリックなこけ方を!
とはいえポチェティーノはセインツ時代に近い高い位置でのプレッシングから速攻を目指しているようで、最近は結果も出始めている。
敗れはしたが、フェルナンドからボールを掻っ攫ってエリクセンがフィニッシュしたシティ戦のように、少しずつ結果が出始めた。
中盤をつなぐメイソン、収まりどころとして機能するケインなど若手も育ちつつある。問題が深刻なのは守備の方で、真に頼れるDFは皆無。
ヴェルトンゲンは毎年下手になりつつあるのは気のせいだろうか。頼りにならないDFラインの背後で、少しずつロリスが心も体も狂ってきているのも見逃せない。
このまま行くと試合中に「地球はレプティリアンに支配されている」とか「人類は月に行ってない」とか言い出してしまいそうな気がする。ウーゴ、あなた疲れてるのよ。
多分今年も6位くらいでフィニッシュするんだろ。知ってる知ってる。
■6位 アーセナル 7勝5分4敗 勝点26 得点28 失点19
君らは一体何をしとるのか。プレシーズンの仕上がりは上々で、コミュニティシールドではシティに完勝。
今年こそはいけるで!と思わせたが、開幕後は格下相手に勝ち切れず、チェルシーには歯が立たず。クリスマスを前にして、早くもCL圏内確保が現実的な目標になりつつある。
原因の一つは間違いなく怪我。後ろから前線まで負傷者が続出しており、DFラインはメルテザッカー以外が全く固定できていない。
被シュート数/失点数レシオ(平均して何本打たれると失点しているか)はリーグ最悪の7.1本であり、チェルシーやシティが13~12本打たれないと失点しない計算なのに比べると、雲泥の差。
しかし怪我人が出るのは毎年の話であり、こんなもんスカッドの構成自体が優勝を狙うには不足しているだけである。チェンバーズやドゥビュシーがCBとしても有能なのはよくわかったが、控えにまともな本職用意しときなよ。
前線も頼みのジルーに負傷が長引き、新加入のサンチェス依存が激しい。また、サンチェスは間違いなく有能なのだが、一人で決めに行ける彼が主軸になったことで、かつて十八番だった流暢なパス回し、サイド〜ペナ角でのローテーションからの攻撃が下手になっているような。
先ごろようやくスタメンに戻ってきたジルーは早くも安定したポストと高さを発揮しており、彼やエジル、ウィルシャー、ウォルコットといった主軸が戻ってくれば上積みは十分なため、CL確保はさほど難しいミッションでは無いはず。
しかしスタジアム建設の負債が消えて、満を持したシーズンがこれでは、、、。来春、さすがに我らがアーセンの首も飛ぶやもしれぬ。
■5位 サウザンプトン 8勝2分6敗 勝点26 得点25 失点13
ロヴレン、チェンバーズ、ショウ、ララーナ、ランバートと後ろから前まで満遍なく主力を引っこ抜かれ、さすがにこれはまずいだろと疑っていたが、バレンシア時代に死ぬほど悪評を打ち立てたクーマンがまさかの再生に成功。ここまで5位に着けている。
最大の原動力は守備の堅さ。安心安全一家に一台スティーヴン・デイヴィスがプレスを先導し、抜けてきたボールはタックル界の神シュナイダリンと機動戦士ワニャマのコンビがことごとく回収。DFはどんだけ引き抜かれてもワニャマとシュナイダリンだけは死守したフロントは偉い。
攻撃面でもペッレがすでに7得点、タディッチもリーグ3位タイの6アシストと、ここまでは補強が良く当たっている。ごめん、オランダリーグからってことで完全に外れると思ってたわ。
シティ、アーセナル、マンUの3連戦では力及ばず全敗したものの、直近のエヴァートン戦では前述のボランチコンビ不在の穴を3−5−2へのシステム変更でカバーして完勝しており、クーマンの采配も悪くない。このままCL〜EL圏内に残ることは難しいだろうが、頼れる守備力がベースにあるのは大きい。ペッレが不調に陥っても、ウザFWの模範シェイン・ロングがいれば何試合かはごまかせる。昨年と同程度の順位は十分狙えるのではなかろうか。
■4位 ウェストハム 8勝4分4敗 勝点28 得点27 失点19
我らがアラダイス大佐がロングボールの新たな境地を開拓。国際ロングボール学会英国本部はお祭り騒ぎです。
これまでダラっとした試合展開の中で局地的にスクランブルを起こすサッカーを基本としてきた大佐だが、今シーズンは潤沢な戦力、いや兵力を活かして窒息しそうな高密度の試合を展開。
サコー、バレンシアの怪人FWコンビと生まれ変わったダウニングが前線からプレスを掛けまくり、ボールを回収してはバッコバッコ放り込み。
左サイドバックのクレスウェル、トップ下のダウニングと高精度のクロス砲も用意して、デカいのが一寸の迷いもなく飛び込んでくる姿は皇国ノ興廃コノ一戦ニアリという風情。各員一層奮励努力しすぎ。クリシ、泣いてたよ?
プレスをはがされたあとの中盤の守備は割とアバウトだったりもするのだが、そこはクヤテ工兵長と歴戦の傭兵ソングが強襲。
DFラインもリード、トムキンズらポテンシャルはあるんだけどねえ、、、というレベルだった面子が成長しており、何十年ぶりかというフィーバーが続いている。これでノーラン軍曹が控えだっつうんだから、厚くなったよね、選手層。
とは言えこのサッカーがいつまでも維持できるかはフィットネスとの相談であり、苦しくなったときに前線がどこまで引っ張れるか。
ようやく戻ってきた6休1勤キャロルに期待したいところだが、すぐ引きこもるからなー。
<Pick Up>ディアフラ・サコ
訳のわからんジャンプ力と雑なフィニッシュを引っ提げてプレミアに殴りこみ、10月の最優秀選手賞まで取ってしまったセネガルの怪人。
シティ戦では相手のフォローの遅さに漬け込み、ひたすら右サイドに流れて空中戦でクリシをボコりまくった。おかげでシティファンの間では「クリシよりユースの子の方がましじゃない?」という噂まで立っちゃったんですけど。
■3位 マンチェスター・ユナイテッド 9勝4分3敗 勝点31 29得点 17失点
有り余る資金力を前線につぎ込み、RvP、ルーニー、ファルカオ、マタ、ディマリアの前線と学徒動員のスカスカDFラインという最高にアンバランスな編成でシーズンを迎えたが、ここまではアーセナルとリヴァプールのコケ芸にも助けられ3位。上出来と言っても良いのではなかろうか。
主力が片っ端から怪我に倒れてブラケットとかマクネアとか誰だお前レベルの若手を抜擢せざるを得なかったDFラインは相変わらず怪しい雰囲気が漂うものの、レスターに5点ぶち込まれて負けて以降はシティに敗れたのみ。
ルーニー、キャリックがチームのバランスを辛うじて支えつつ、前線の超人が安定して点を取るので収支はプラス。
来年以降はDFと中盤にも資金投入が為されると思われるので、タイトル戦線への復帰は近そうである。
しかしファンハールって頭おかしいよなあ。こないだ見たら、キャリックが3バックの真ん中で、ルーニーとフェライニがダブルボランチしてたぜ。
■2位 マンチェスター・シティ 11勝3分2敗 勝点36 33得点 失点14
主力のコンディション不良と2トップ大好きおじさんのこだわりで守備はスカスカ、どんな相手にも決定的チャンスを2,3作られるのがデフォルトな低空飛行ながら、何とかかんとか2位。すでにチェルシーとマッチレースの様相を呈しており、これでいいのかこの二人旅。
前半戦はやっぱりやる気をなくしていたヤヤ・トゥレを筆頭に主力の状態が心身ともに整わず、ボールを奪う仕組みも昨季から相変わらず整備されていないため、ひたすらアグエロ打線の爆発とミルナー先生メガ進化で耐える日々が続いた。
CLでも4試合終えて勝点わずか2とシャレにならない間抜けっぷりを見せており、今シーズンは残りボヤタの出場機会を数えて過ごすことになるかと怯えていたが、バイエルン戦で幸運にも逆転勝利した辺りからパフォーマンスが安定し始め、まさかの8連勝。同時にFW不足もあって4-2-3-1にシフトしてから目に見えて中盤のスペースが埋められるようになり、あへあへ2トップおじさんもようやく学んだのかと感慨ひとしおである。
とはいえ守備の完成度ではチェルシーに遠く及ばないことには変わりなく、ここから着いていくにはビッグゲームでの傭兵転換(具体的にはヤヤトゥレの控え化)と、アグエロの一刻も早い復帰が不可欠。
昨年はビッグゲームで悉く負けたにも拘らずリヴァプール、チェルシーのずっこけによって幸運にも手にしたタイトルであり、今年はその辺りから学んだことを見せてほしいものである。
<Pick Up>ジェイムズ・ミルナー
開幕前は「もっと試合に出たいので移籍するかも」とさんざゴネたが、開幕してみるとミルナー史上最高のパフォーマンスでチームをけん引。
いまやマンチェスター・イブニング(地元紙)のコメント欄での人気はサバレタに次ぐほどである。チームで唯一と言っても良い斜めの裏抜け&守備へのダッシュを繰り返せる選手であり、シルバやナスリとの相性は抜群。
たぶんイングランド代表でそんなに輝かないのは、こいつが走ってもそのスペースを使う選手がいないからだと思う。
相変わらずツイートも冴えまくっており、ピッチ内外で評価をかつてないほど高めているそんなミルナー先生早く契約延長しよ?
<Pick Up>デドリク・ボヤタ
シーズン開幕前には「神よ、なぜあなたは水をワインに変えられたのに、ボヤタをまともなDFに変えないのですか」と弄られていた男が、コンパニ様の怪我とマンガラの出場停止で突然のスタメン。大方の予想を裏切って無難に90分をこなし、ボヤタの民ボヤタリを歓喜させた。なおその後は当然出場無しである。
■1位 チェルシー 12勝3分1敗 勝点39 得点36 失点13
昨シーズン、下位チーム相手に意外な甘さを露呈してタイトルを逃したジョゼと愉快な仲間たちが、めちゃめちゃ容赦ない姿で帰ってきてしまった。
ジエゴ・コスタ、セスクという大型補強がこれ以上ないほど当たり、アザールはロナウド、メッシに次ぐレベルの超人に進化。昨シーズンの得点力不足はどこへやら、得点数は無く子も黙るリーグ1位である。
守備でもダヴィド・ルイスの穴は無く、ていうかむしろ抜けて良かったんじゃないかみたいな可愛げのなさ。ニアのクロス全部跳ね返すもん。こいつら嫌い。
昨シーズンはハッピーワンとか抜かしていたジョゼもいつもの憎たらしさを取り戻しつつあり、ニューカッスルに負けた試合でも薄笑いで終了の笛を聞くという。
最近ではうっすら化粧してるようにすら見えてきて、そのうち機械の身体になってフォースでヴェンゲルを吹き飛ばしそう。
不安要素は主力固定のツケがそろそろ出始めた(主にケイヒル方面)くらいだが、ドログバ、レミ、ズマら控えもこれまで十分な仕事をしており、多分乗り切り可能。
タイトル争いの最有力であることは揺るがないと思われる。
<Pick Up>ネマニャ・マティッチ
軽トラ並みのフィジカルと元トップ下ならではのテクニックで中盤を支配する反則クラッシャー。
しかもそこそこ動けると来ている。昔はなんか野暮ったい棒っきれだったのに、こんなのに進化するとは、ポルトガル牧場の効果すごい。