シティの不安定な戦いの原因

マンチェスター・シティが苦しんでいる。プレミアリーグは全日程の約1/4を消化した時点ですでに2分2敗で首位チェルシーと勝ち点差6、CLでは3試合を終えて勝ち点2に留まっている。
優勝した昨シーズンにおいても、一時は自力優勝が消滅するまで追いこまれており、優勝はリヴァプールチェルシーが自滅したことによるものだった。
選手年俸で最低でも他チームの20~25%高いシティがチェルシーに遅れを取り、アーセナルリヴァプールと同等の勝ち点に留まっていることは、シティが戦略面・戦術面で問題を抱えていることを示唆している。





労多くして実少なし



WhoScored.comによると、シティの得点数/シュート数はトップ10中下から4位、失点数/被シュート数は上から3番目である。
チェルシーと比べれば、シティは1点取るのにチェルシーより約5本多くシュートを打たねばならず、反対にシティから1点を取るのには、チェルシーよりも約4本少ないシュートで済む。
シュートの割に得点が少なく、被シュートの割に失点が多い、効率性の低いチームであることが伺える。
また被シュート数に対して相対的に失点が多いことは、決定的なピンチを迎える場面が多いことを示唆している。

またピッチ上での現象として、戦力的に勝る相手にも局地的にボールを支配される、一部の選手が守備に参加しないといった場面が見られる。
まとめると、シティのピッチ上での問題は、ポゼッションおよびシュート数に対して効率的に得点を奪えない、一方でボールを奪われると奪回できず、効率的にシュートまで持ち込まれる。

理由としては、監督の資質上の問題と、クラブの置かれる状況から、戦術上の穴を埋める手立てが講じられていないことが考えられる。







アンタッチャブルが多すぎる



今シーズンのシティは、基本的に4-4-2を採用する。CBのコンパニ、中盤中央のヤヤ・トゥレサイドハーフのシルバ、FWのアグエロが(GKハートを除いた)出場時間トップ4であり、通常はジェコがもう1枚のFWに、ミルナーサイドハーフに、フェルナンドまたはフェルナンジーニョが中盤中央に入る。
このメンバーでサイドハーフを中央に絞らせ、SBを前線まで高く上げて攻撃を行う結果、中盤とFWの間、両サイド、DFラインの裏に多大なスペースが生じる。
そのため、相手チームはサイドの裏に流れてボールを受ける頑健なFW、中盤でセカンドボールを拾う敏捷なMF、および中盤中央でボールをキープできる選手がいれば、簡単にシティを押し返し、チャンスを作ることができる。
トークのウォルターズ、ウェストハムのサコ、ハルのハドルストーンがシティとの対戦に置いて好プレーを見せたのは、その好例である。





この原因は、ピッチ上にアンタッチャブルな選手が多すぎることにある。
アンタッチャブルな選手とは、攻撃で平凡な選手にはできない働きをする反面、守備での貢献が期待できない選手のことを指す。
シティではアグエロ、ジェコ、ヤヤ・トゥレが守備面での意欲・技術を期待できず、ダビド・シルバも身体的に守備に向かない。
チェルシーにおける明確なアンタッチャブルアザール1人であることと対照的である。
その結果、前線の2トップが守備をしないため、相手のボランチが空く。ヤヤ・トゥレの戻りが送れるため、フェルナンドが釣り出される。
相手がエリア前でボールを受けるため、DF陣が一か八かの対応を迫られる。結果、失点が増える。







なぜアンタッチャブルが多いのかについては、監督であるマヌエル・ペレグリーニの資質による部分と、シティというクラブの近年の歴史によるところが大きい。




ペレグリーニはマドリーでそうであったように、走らない選手を走らせることが得意ではない。
ビジャレアル時代のように多くの走る選手と、一握りの走らないスターというチーム構成ではうまくバランスを見つけたが、マドリーではカカー、ラウール、ロナウドというアンタッチャブルにバランスを見出すことができなかったと思われる。アンタッチャブルな選手を減らす選考を行わない理由は謎である。




2点目については、アブダビの投資グループによる買収以前、ピッチ内外での競争力が低かったことに起因する。
オーナーシップの交代により急激に競争力を上げた他クラブと比べても、シティの実績は低かった。もともとCLに参加するチームであったチェルシーパリSGと比べて、シティは買収前まで残留からUEFAカップを争うチームであった。
このため、クラブは保有する有力選手に対して甘い態度を取らざるを得ない。選手にはプレミアリーグで最高の高給が保証され、口うるさいOBもいない。
規律を乱す行動に対してのお咎めも少ない。夏のヤヤ・トゥレの一件についても、クラブから公式な批判見解は出されていない。
Independentのイアン・ハーバートは「I do not know a better club than City at trying to understand their players.」と書いている。「彼らはシティを必要としないが、シティは彼らを必要とする」からである。





楽観的になり得る点としては、現在の苦戦がクラブ運営上およびリーグ構造上の問題によるものではない点である。
かつてのレアル・マドリーのように、会長が保身のために監督をすげ替える、補強責任者と代理人が結託して不適格な選手を買ってくる、リーグの他チームがそれ以上に弱体化している、という兆候は今のところ見られない。
現在の不調は、戦術の適切な変更、ないしはW杯出場選手のコンディション向上が果たされた場合には解消される可能性があるものである。
ただし、それまでに欧州で敗退し、チェルシーに挽回不可能な差を付けられている可能性はあるが。