ホームグロウン売ります

自国内で育成された選手の登録を義務付けたホーム・グロウン・ルールの施行で、今ビッグクラブには必要な若手選手が不足しているらしい。
チキ・ベギリスタインは、スコット・シンクレアの獲得が戦力としての期待よりもルールを満たすためのものだったことを明らかにした。シンクレアはわずか50万£でチェルシーからスウォンジーに売られ、800万ポンドでマンチェスター・シティによって買い戻されたのである。




プレミアリーグはこのことを明らかにしていないが、ルールを満たし、最低限戦力になり得る可能性がある若手選手探しがイギリス中で行われているらしく、つい先立っても一人のスカウトが4部リーグに所属するハックルトン・ユナイテッドの事務所に姿を現した。




彼はハックルトンのディレクター、スティーヴ・シリーウォークの出迎えを受けた。
「ハックルトン・ユナイテッドへようこそ、偉大な赤い狼よ」とシリーウォーク氏は言った。「野蛮なアラブの犬どもがわれわれのユース組織を呑みこんでしまうと脅かして以来、あなた方と会うのは初めてだ。」
「そうだったな、スティーヴ、しかしそれもみな昔の話だよ。最近はどうしているかね?」
「オフィスはびくともしないが、スタジアムは椅子がぐらつき始めた。あんたはまた我々に若手選手を貸してくれようというのかね?」
「いや、スティーヴ、その反対だ。9歳のときにあんた方に預けていった若手をここから運び出して、スカッドの余りを広げてやろうと思ってね」
「なんのために?」
「雇用創出のためにだよ。ところでスティーヴ、我々が預けていった子供たちはまだいるかね?」
「いるとも。まだたくさんうちに残っている。もっともあんた方の言い方では『契約解除』だったと思うが」
「ああ、気にしなくていいんだよ。実は我々はこの10年間君たちの財政が心配で気持ちが休まる暇が無かった。そこでクラブが破産でもするといかんから、選手をクラブの外に持ち出すことにしたよ」
「よかろう、勇敢なる戦士よ。で、いくらで買ってくれるのか?」
「そうだな、そもそも買うつもりは無かったのだが、選手1人につきスパイク10足でどうかね?」
「ちょっと待った、お偉いマエストロよ。2,3週間前にチェルシーのスタッフが来て、キャッシュで1万ポンドの値をつけたよ」
「それじゃ、2万ポンドで恨みっこなしといこうじゃないか」
「あんたはたいそう気前のいい人だ、偉大なる赤い悪魔よ。だがその数日後にムッシュー・ヴェンゲルの使いがやってきて、10万ポンドにマフラータオル付きという条件を出したのだ」
「冗談じゃない」と、スカウトは言った。「もともとあれは我々の選手じゃないか」
「そうとも、劇場の主よ。しかしあの子はアンダー12のイングランド代表に選ばれたことがあるし、あっちの子はサー・アレックスに『良い子だね』と褒められたことがある。こっちの子はダリオ・グラディのお墨付きだぞ」
「わかったよ、では50万ポンドだそう。これでぎりぎりいっぱいだ」
「残念だったな、スーツを着たブッダよ。2日前にエヴァートンがやってきて、100万ポンドの値を付けた。しかもエイミー・ワインハウスのDVDが1グロスのおまけつきだ」
「ほかに誰がこのクラブに来たかね?」と、スカウトは腹立たしげに尋ねた。
リヴァプールアストン・ヴィラサウザンプトントッテナム、QPR、ウェストハムマンチェスター・シティだ。最後の指値は900万ポンドにデドリク・ボヤタのおまけ付きだったよ。あんたに一つ聞きたいが、いったい上の世界じゃなにがおっぱじまったのかね?」
「そんなことは気にするな。オーケー、1人につき1,200万ポンド出そう。これ以上はびた一文出せん」
「いいだろう、取引成立だ、誇り高き兄弟よ」




こうして偉大な赤い軍団は、首尾よく“将来を嘱望される若きウィンガー”を手に入れた。彼は“ゲームを見極める目”と“目を見張る献身性”を持ち、“タックルとクロスに長けて”いるのだという。彼は2年半ほどリザーブチームで練習したのち、トッテナムに払い下げられる予定だ。