ウィンター・トランスファー・ウィンドウ・チャンピオンシップ・クロニクル


イングリッシュ・プレミアリーグのボトム10のあいだで冬の移籍期間に行われる「的外れ補強選手権」は、ともすればビッグクラブの間だけの関心ごとでしかない優勝争いよりもはるかに熾烈で、エキサイティングなものとなっている。

2014年のウィンター・トランスファー・ウィンドウもあと数日で閉じようとしているが、この機会に過去10年の「冬の王者」たちの偉業を振り返ってみることとしよう。


【2004/2005シーズン】
まず目を見張るのは、エル・ハムダウィ、ミド、アンディ・リード、ドーソンを買ったトッテナムだ。今ではこの選手権における王道の一つとして知られている「若手だったらなんでもいい」作戦だが、それを始めたのはこのロンドンのクラブだという説もある。

だがこのシーズンの王者は、トッテナムではなくボルトンだ。かつてフレディ・ボビッチ、ピエール・イヴ=アンドレを獲得してイギリス中の度肝を抜いたサム・アラダイスは、同じテクニックをイタリア方面で活用した。ピークを過ぎたヴァンサン・カンデラを獲得して平凡な右サイドバックとして活用したその手腕は、多くのサッカー通を唸らせたものだ。



【2005/2006シーズン】
何と言ってもこのシーズンの王者はポーツマスを置いて他に有るまい。残留争いのただ中にあった”ポンペイ”(訳注:ポーツマスの愛称)は、「1人1人は有能だが、全体としてはしっちゃかめっちゃか」というテクニックにかけては右に出るものが無い。
守備陣にディーン・カイリーとノエ・パマロ、中盤にオグニェン・コロマン、ショーン・デイヴィス、ペドロ・メンデス、ウェイン・ラウトリッジを加え、更に前線にはベンジャニ・ムワルワリとポーランド代表のオリサデベ、アルゼンチンのダレッサンドロを獲得するという偉業は、そのバックグラウンドの多彩さと、結果との不結実性ゆえに、この10年でもトップ3に入ると言えよう。



【2006/2007シーズン】
実はこのシーズンについて語るべきことはあまりない。夏にカルロス・テベスハビエル・マスケラーノを獲得したウェストハムインパクトが強すぎたのか、各クラブの冬の活動は特に目を引くものではなかった。その中でチャンピオンを選ぶとすれば、ヴィンチェンツォ・モンテッラを獲得したフラムだ。全盛期には手が出なかったスターをローンで獲得し、ベンチで遊ばせておくという手法は、オーソドックスながらツボを抑えていた。



【2007/2008シーズン】
歴史に残る伝説的なチャンピオンが生まれたシーズンであるが、ヤリ・リトマネンを獲得したフラムについても触れておく必要があろう。このときすでに36歳だった元アヤックスの10番は、最終的に1試合も出場することなく、ロンドン旅行をエンジョイして去った。



【2008/2009シーズン】
テオファニス・ゲカスとアンゲロス・バシナスを一気に獲得したポーツマスの手法には、「周辺」たる弱小国を世界の「中核」に取り込むという点で、E.ウォーラーステインが提唱した『世界システム論』の影響が見て取れる。それ以外にも、ナディル・ベラージ、ジャーメイン・ぺナント、ヘイデン・マリンズと全く統一感が無い補強を行った点も高得点だ。破産とその後の降格によってポーツマスの首脳陣は大きな非難を浴びたが、私に言わせればそれは大きな間違いだ。



【2009/10シーズン】
ミド、マッカーシー、ギジェ・フランコ、イラーンと代表クラスのストライカーをかき集め、ほとんど誰も役に立たなかったウェストハムの独走だ。特にミドについては、この期に及んでミドに期待をかける程に頭がおかしくなってしまったと思わせる、見事な技術だった。実際おかしかったのかもしれないが。



【2010/2011シーズン】
夏にニコラ・ジギッチアレクサンドル・フレブを買っていた点も含めての評価になるが、デイヴィッド・ベントリー、カーティス・デイヴィス、オバフェミ・マーティンスを獲得したバーミンガムが優勝に相応しい。世界のビッグネームをかき集める田舎クラブというのは、いつ見ても心が躍るものだ。



【2011/12シーズン】
このシーズンだけは、プレミアリーグ外のチームを選ばなくてはなるまい。ドンカスター・ローバーズは、「アフリカ人を買えるだけ買ってくる」という、シンプルだが極めて有効なメソッドを活用した。セネガル人3人(エル=ハッジ・ディウフ、アビブ・ベイ、ラミヌ・ディアッタ)、ナイジェリア人1人(カール・イケメ)、マリ人1人(バガヨコ)、ブルキナファソ人1人(バモゴ)、コンゴ人1人(イルンガ)、加えてフレデリック・ピキオーヌ、ダミアン・プレシ、マルカントワーヌ・フォルテュネ、クリス・カークランド、パスカル・シンボンダをチームに突っ込んだのだ。

専門的な見地からも、ドンカスターにはケチのつけようがない。

☆人数・・・11人全員を入れ替えるなど、カーディフのアジア人暴君、ヴィンセント・タンですら思いつくまい。
☆芸術点・・・鮮やかにアフリカ人のロイヤルストレートフラッシュを叩き込んだその冷静さには恐れ入る。
☆技術点・・・ディウフ、ベイ、ディアッタ、シンボンダと4人のW杯経験者がドンカスターの田舎町に集結した奇蹟を評価しないわけにはいかない。
☆コンビネーション・・・かつてリバプールで将来を嘱望された2人、プレシとカークランドは、凍えるドンカスターのベンチに座りながら、自分たちが活躍するはずだったアンフィールドを想ったに違いない。

"ローバーズ”が成し遂げた偉業は、ドンカスターの降格と共に、永遠に語り継がれていくことだろう。