的外れ補強選手権

イングリッシュ・プレミアリーグのボトム10のあいだで冬の移籍期間に行われる「的外れ補強選手権」はともすればビッグ4の間だけの関心ごとでしかない優勝争いよりもはるかに熾烈で、エキサイティングなものとなっている。
2007/08シーズンはダービー・カウンティがダントツの勝利を飾ったが、私がその立役者であることはこの1年半の間私とダービーの首脳陣だけの秘密だった。先日ようやく先方からの緘口令が解除されたので、僭越ながらここに自信の輝かしい功績を書かせてもらうことにする。


あれは12月の曇った、寒い日の午後だった。ダービーの移籍担当者、ジョージ・コンスタントプロスは私に電話をかけてくるなりこう切り出した。

「今回のチャンスは絶対逃すわけにはいかん。これを逃せばあと5年は昇格のチャンスはないだろう。」

「確かに、今年のダービーは今すぐチャンピオンシップに組み込まれても残留争いを演じそうには見えるな。」と私は皮肉を言った。

「そんなことは始まる前からわかっていたことさ。コリン・トッドとロビー・アーンショウで残留を果たせようなどといったい誰が思うかね?我々にとってはこちらの方がよっぽど重要なんだ。うかうかしてはいられない。サンダーランドはすでにラデ・プリカを手に入れたというし、ウィガンはホンデュラス人2人と話をつけたということだ。」ジョージの口調からは焦りがはっきり伝わってきた。

「それでいったいどうしようというんだい、ジョージ?」

「今すぐ新戦力を買い入れる必要がある。なるべく過去に活躍して、今は一線から遠ざかっている選手がいい。ビッグクラブにいたやつが望ましいね。たとえば、ここ数年のボルトンの偉業を知っているだろう?ピエールなんたらとフレディ・ボビッチを買ってくるだなんて、誰にも思いつかなかったことだ。」

「そういえば、フラムがヴィンチェンゾ・モンテッラを買ってきたことがあったな。」

「あれはあのシーズンの優勝をさらっていった。みんな感心したものさ。」

「年を食ったやつじゃなきゃだめなのかい?」私はまだ要領をつかめなかった。

「いや、そうじゃなきゃダメだということではない。どこかの国の有望な若手を買ってきてリザーブで遊ばせておいてもいいし、一人一人は有能でも全体として方向性がしっちゃかめっちゃかになっていてもいい。大事なのは、我々がそんな奴に頼ろうと考えるほど頭がおかしくなってしまった、と人々に思わせることなんだ。」

「フランシス・ジェファーズとマイクル・ブリッジズはどうだい?」

「フラニーはダメだな。あまりにも悪いイメージがつきすぎてる。受け狙いに走ったと思われてはダメなんだよ。あくまで補強の体をなしてなきゃならん。
ブリッジズが戦力になると思う奴は今やおらんだろう。今や我々は世界最強のフットボール・リーグだが、それでもやはりどこかに90年代の神秘的なにおいが残っている、と感じさせることが大事なんだだ。」とジョージは力説した。

「ヨハン・エルマンダーは?」

「話にならんよ。それじゃ思いっきり普通の補強じゃないか。」私はちょっと悔しくなって、手もとの選手名鑑をぱらぱらとめくった。

「それじゃあ、エンリコ・キエーザは?」

「君もわかってきたようだな。しかし今は怪我をしていてまったく試合に出ていないはずだ。医務室に通わせるために35歳の男を買ってくることはできんよ。」

「カメル・メリアンなんかいいと思うがね。」

「悪くない。マンチェスター・シティは2年前にジャメル・アブドゥンを買ってそれっきりだったからな。しかしインパクトという点では少し弱いな。」

「どこかのイラン人を3人ばかり買ってきたらどうだろう。」

「中東は移籍金が高いんだ。しかしそのアイディアは悪くない。一応頭に入れておこう。」

ディエゴ・トリスタンはどうだ。彼にジェラード・ロペスなんかつけたら優勝はもらったようなもんだぞ。」

「トリスタンはどこかイタリアのチームにとられちまったんだ。向こうはシーズンの初めからそれをやってるからね。」

「こうなるともう私にはジェイミー・キュアトンくらいしか思いつかんよ、ジョージ。」

「キュアトンじゃ弱すぎるな。まあいいさ、手を煩わせて悪かったね。」電話口からは彼の落胆がはっきり伝わってきたが、彼もこんなところで時間を無駄にしてはいられないと思ったらしかった。

突然私の脳裏にこの20年だれも思い付いていないような素晴らしいアイディアが思い浮かんだ。
「おい待てよ、ジョージ、いいことを思いついた。ローラン・ロべールとダニー・ミルズを買ってきたまえ。それにロビー・サヴェージを加えれば一丁上がりさ。ブラックバーンはスイス人のMFを買うって話だから、サヴェージくらいどうってことあるまい。この3人を一度に買ったと聞けば、サム・アラダイスだってひっくり返るぜ。」

「それだ!!今すぐ会長に連絡するよ。これで今年のタイトルはいただきだな。そうなった暁には、君をタヒチあたりに招待するよ。本当にありがとう。」

「なに、大したことじゃないさ。」



こうしてダービー・カウンティプレミアリーグ史上最低勝ち点で降格したが、クラブ内にそのことを悲しむ人間は誰もいなかった。プレミアリーグの歴史上、最高のポイントで「冬の王者」に輝いたからである。