2015/16シーズン 上位陣プレビュウ アーセナル編

(Property Developmentは不動産部門)




アーセナルはある意味ではこの上なく健全なクラブである。
まず、2003年から2014年まで12年連続で利益を計上している。サッカークラブは大体の場合損失を出すが、アーセナルは出さない。
次に、キャッシュフローも基本的にプラスか、差引トントン。要するに、選手の獲得も含めて自己完結している。



(当期利益およびキャッシュフローの推移)






そして、18年かそこらの間、連続してチャンピオンズリーグに出場し続けている。うち1回は決勝まで進み、アンリがGKとの1vs1を決めていれば勝っていたところだった。
近年は資金的に余裕が出てきており、サンチェス、エジルといったワールドクラスを獲得した。補強戦略の転換は純粋な選手獲得費用に表れている。さらに今シーズンは、ベンゼマを狙っているそうだ。ベンゼマ獲ったら見直すなあ、ヴェンゲル。



(純粋な選手獲得費用の推移:マイナスは獲得費用<売却収入)





一方で、ある意味ではアーセナルには不健全なところがある。
毎シーズン優勝候補の一角のように扱われるが、実際には2005年以降真にリーグ優勝を争ったことがあるとは言い難い(3位か、4位だ)。
若手選手を重宝して初期投資を抑えているが、彼らが主力に成長した頃には別の、往々にして直接国内タイトルを争うクラブに売却しており、しかも彼らは移籍した先でタイトルを獲得する(ファン・ペルシー、ナスリ、クリシ、セスク、ソング、フレブ。まあ、フレブがバルセロナで幸せだったかは疑問だが)。アーセナルがこれまで計上してきた利益には主力選手の売却が大きく寄与している。今年7月にヴェンゲルは「もうベストプレーヤーを売る必要は無い」と宣言したが、裏を返せば、売却しなければクラブのポリシーを維持できなかったのだ。毎回ヴェンゲルは「我々は選手を売る必要は無い、彼は残る」と言っているような気がするが。
また、バランスシートには2億ポンドのキャッシュがあるが、他のクラブほどには移籍市場に突っ込まれたりはしない。ついでに言えば、繰上返済もしないと明言している。


(選手売却収入を除いた場合の当期利益推計額)



(有利子負債総額と現預金の推移)






元チェアマンのピーター・ヒル=ウッドは、「CL圏内を確保できなければ痛手ではあるが、大失敗というほどではない。毎年は出られないという想定をしている」と言ったことがある。英語のソースが確認できなかったが、「クラブに関わるすべての人たちが誇りを持てるのは、健全な経営にあり、トロフィー獲得ではない。」と言ったこともあるらしい。勇気ある発言だと思う。使えるけど使わない。狙えるけど狙わない。無理してまでは。

そして、ヴェンゲルが「経済的に制限を食らっていた期間はもう終わった」という頃には、アーセナルの強みはある面では相対的に薄まりつつある。リヴァプールチェルシーは利益を計上するに至り、シティもそれに近い水準に到達した。売上に占める給与の比率も、5クラブ間ではほとんど差が無くなった。



(売上に占める給与の比率)



依然として、アーセナルの総給与はまんゆ、シティ、チェルシーから大分低い。ヴェンゲルは給与だけが勝ち点を生み出す源泉ではないと知っているし、彼の手腕―若手選手を1stチームで戦力化するのは天才的に上手い―はFFPの導入と相まってそう遠くない未来に効力を増すかもしれないが、現時点でチェルシーに匹敵するスカッドとは言い難いように思われる。
それでも、今シーズンの目標としては優勝としておくべきではないかと思う。2016/17シーズン以降、プレミアリーグの放映権料は1.5倍に拡大する。そもそも2013/14シーズンからの3年間ですらその前の3年間から1.6倍に拡大しているため、他のクラブにとってはFFPの順守はより容易になる(FFPは、対象シーズン以前の3年間が対象になる。)その前にあるチャンスを逃せば、また優勝が遠のく期間が延びても不思議ではない。



予想は2位。




(sources:The Swiss Ramble, Transfer League, Transfermarkt, Guardian)