2015/16シーズン 上位陣プレビュウ マンチェスター・シティ編

「何位になりそうか」はよくわからんので、「何位なら成功/失敗と見なすべきか」について、考えてみたいと思います。


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マンチェスター・シティ


 
FFPの制裁は受けるわ、優勝にはかすりもしないわ、2013/14は散々なシーズンに終わった。アブダビのオーナーシップ取得以降行け行けドンドンで進んできたが、FFPの導入と主力の高齢化を受けて、戦略見直しの時期が来ている。





財務面ではFFPの制裁を除いてほぼ営業損益トントンに達し、売上に占める給与の比率も他クラブ並みに落ち着いた。P/L上のバランスとしては2013年までのアーセナルより良い水準くらいだ。ただ、依然としてサステナブルな事業モデルに到達したとは言い難い。簡単に言えば、売上>給与というサッカークラブとして(数字上は)ビジネスの体を為してない状態は2年前に脱却。次にP/L上はほぼ赤字がゼロの状態まで持ってきたが、キャッシュフローはオーナーの増資で回している、という状態である。


(売上、EBITDA、営業利益の推移)


キャッシュフローの内訳:2014 ”Financing"のほとんどがオーナーからの増資)




ここまでの足取りを振り返ると、まずステップ1:戦力補強。2008/09シーズンにロビーニョ(£30.1m)を筆頭に£110.2mの補強を行ったのを皮切りに、2009/10シーズンは£103.1m、2010/11シーズンは£127.7mをつぎ込んだ。当然、実績もブランドも無いシティに有力選手を呼ぶために必要なのは給与だ。売上拡大が給与の増加に追いつかないため、EBITDA(ここでは売上+その他収入−給与およびその他営業費用。すなわち、サッカークラブとして純粋な収支に近い)の段階で赤字の状態に陥るが、成績は改善した。



ステップ2:“まとも”なサッカークラブへ。成績の改善に伴う放映権料の拡大とスポンサー獲得で売上を増やすとともに、給与水準を落ち着かせ、スカッド編成の効率性を高める。売上に占める給与の比率は徐々に低下し、2014年には59.2%に達した。これはチェルシーよりも低い。また、ジョー、アデバヨール、ブリッジのようにすぐ戦力外になってしまうような高額な買い物が少なくなったため、減損も発生しなくなった。すなわち、獲得すべき選手の査定、獲得交渉、給与設定がより上手になったということだ。これでようやく、2013年にEBITDAがプラスになった。



ステップ3:黒字化。これにはあと一歩。2014年はアブダビ化以来初めて給与総額が低下し、売上の拡大と相まって、営業黒字まであと£-17.7m(FFP制裁を除けば£-1.4m)まで到達した。あとは、オーナー頼みのキャッシュフローの改善だ。








2014年を少しだけ細かく見ると、まず売上面では、他のビッグクラブを圧倒する成長率で拡大を続けており、2014年時点ではマンUに次いで2番目の規模に到達。とくに広告収入(Commercial Revenue)の伸びが著しい。もともとのビジネスの規模が小さかったこと、アブダビ企業群(エティハド航空アブダビ観光局、エティサラット)とのスポンサー契約が寄与していることは確かだが、アンブロ、日産、ヘイズ、SAPといったそれ以外のスポンサー獲得にも成功している。


(上位5クラブの総売上推移)


(5クラブのコマーシャル収入比較)




損益の面では、営業損失を2014年に£-17.7mまで削減。このうち£-16.3mはFFPの罰金なので、ビジネス自体はほぼブレイクイーブンまで到達した。2011年の営業損失£-190.3mからは実に£172.6mの改善だが、このうちのほとんどは売上拡大によるものである。(あとはベラミー、ジョー、アデバヨ−ル、サンタクルスといったダメ資産の減損が無くなったこと。)



立て、立つんだジョー!




ただし、前述のようにキャッシュフローは未だオーナーの増資でカバーしている。2013年と2014年を比べると(1)営業キャッシュフローは黒字に転換、(2)トレーニング施設の整備で固定資産の取得が増加、ということで、最終的なキャッシュインの額は近くとも中身はマシになっているのだが、依然選手獲得費用が大きすぎる。FFPの適用に伴い、今後はこの部分を落ち着かせていくのだろう・・・・と思うじゃろ?そこでスターリング(£49m)とデブルイネ(£40〜50m)じゃよ。



いや、確かに「2列目を中心に今後の主力となりうる有望株を」と言った。言ったが、いきなりそう来るとは思わなんだ。しかもポルトガルU20代表の10番マルコス・ロペスは呼び戻すわ、ナスリとナバスは売らないわ、お前ら2列目ばっかり集めてどうするつもりだ。


ここまで大盤振る舞いができるのは、ネグレド、ジェコ、ヨベティッチらがそれなりの価格で売却できていることに加え、FFPのいう“ブレイクイーブン”に一定の免除事項があるからと思われる。詳細はSwiss Rambleのこの記事後半を見てもらいたいが、要するに一過性の損失(減損やFFPの罰金)、決算確定後に放出された選手の給与等はP/L上の損失から除外される。のでP/L上の損失だけ見てもFFPの制裁対象となるかは判らないのだが、それにしても不安を煽ってくれる動きである。そんなに使って大丈夫か。






今年の成績としてはおおよそ3位か4位、下手したら5位、上手くいけば2位という予想が多いようだ。まあ、そんなとこではなかろうか。相変わらず守備スッカスカだから。2年前までプレミア最高のCBだったヴァンサン・コンパニも、今やすっかり歩く地雷、“Booking waiting to happen(=「どうせファールでカードだろ知ってる」)”扱いである。



(1)広告収入の拡大レースについていく、(2)CL出場圏内を確保し続ける、(3)オーナーに頼らずキャッシュが回る状態に到達する、ということが重要で、とくに(3)のためにはコストパフォーマンスを高めなくてはならない。ということは、これまでのようにバカ高い選手ばっかり買っているようではダメで、初期投資額が安い若手を1stチーム内で育てていく必要がある。もしくはチェルシーのように、育成をある程度外注してしまうか。いずれにせよ、シティが下手なところだ。今年はジェイソン・デナイエル、マルコス・ロペス、ケレチ・イヘアナチョといった若手が1stチームに引き上げられた。彼らをチームに馴染ませ、成長させられるかが長期的には重要である。


ちなみにイヘアナチョの名前が覚えにくいという人は、アヘ穴チョと覚えよう。いかがだろうか、アヘ穴チョ。Pixiv百科事典にエロ同人用語として載っていそうな趣がある。



予想は4位。





(sources:The Swiss Ramble, Transfer League, Transfermarkt, Guardian)