2015/16シーズン 上位陣プレビュウ マンチェスター・ユナイテッド編

「何位になりそうか」はよくわからんので、「何位なら成功/失敗と見なすべきか」について、考えてみたいと思います。


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イングランドサッカー界最強のキャッシュマシーン。それがまんゆである。




収入規模は2位のシティに約£90mの差をつけてぶっちぎりの1位。マッチデイ収入1位、放映権収入2位、コマーシャル収入1位と全ての面で死角が無い。2013/14シーズンにCL、ELに参加できなかったため、2015年の決算では売上が一定程度(まんゆ自らの予測では£40mほど)減少する見込みだが、1シーズンでCL圏内に復帰を果たしたことで、2016年の決算以降は問題ないはずだ。

(上位5クラブの売上高内訳:2014)




給与総額はシティを超えてリーグ1位(£214.8m)に到達したが、それでも収益性は他を圧倒しており、営業利益額はアーセナルの約6倍、リヴァプールの10倍の£60.8m。2015年以降は減価償却費が増加すると思われるが、後述するスポンサー契約を考えればお釣りがくるだろう。
当期利益(Profit After Interest & Tax)は約£120mほど減少したが、これは税効果会計による一時的なもの。重要なのは支払利息が約£43m減少したことで、グレイザー一家による買収(LBO)で背負った債務の負担は着実に軽減されつつある。

(有利子負債総額の推移)




収入面をもう少し細かく見ると、強みの一つは収入源のバランスの良さ。プレミアリーグにおける放映権料の高騰(敢えてバブルとは言わんが)がいつか弾ける弾けると言われて久しいが、まんゆは放映権料への依存度が5クラブ中最も低く、全体の30%程度。放映権料はCLに出続ける限り差が付きづらいので、望ましい収入バランスと言える。

(上位5クラブ 売上高の内訳:構成比)




また、コマーシャル収入には2015年からシヴォレー(胸スポンサー、年間£46m)、2016年からアディダス(キット全般、年間£75m)というメガディールが加わる。前者は前任のエーオンの約2.3倍、後者は同じく前任のナイキの3.0倍である。ちなみに他クラブと比べると、2014/15シーズンの時点でユニフォームのスポンサー料はアーセナルの約1.7倍、シティ、リヴァプールチェルシーの約2倍強。それだけもらえりゃ、あの微妙なデザインも喜んで着る。(個人の感想です)







ただし、これだけサッカー事業でキャッシュを生み出す割に、まんゆ自体の最終的なキャッシュフローはマイナスである。これはまあグレイザーのせいで、例えば2012年は事業から£80mものキャッシュを生み出したのに、利息で£46m、元本返済で£29m、配当で£10mのキャッシュアウトが発生。つまり、ほんとなら払いたくないことに£88mも支払ったわけだ。純粋な選手獲得(獲得−売却)と設備投資を合わせたまっとうなキャッシュアウトも£72mあるが、本来なら£160mの大盤振る舞いで、チェルシーシティ何するものぞだったかも知れない。

(2012年のキャッシュフロー内訳)
オレンジが「サッカークラブとしてまっとうなキャッシュアウト」で、赤が「できれば払いたくないキャッシュアウト」



よって、グレイザー一家はいつも冷たい視線に晒されるのである。曰くサッカーは勝利を追求するものであるのに、奴らは利益を追求していると。曰くあの手この手で金をちょろまかし続けるはずだと。曰くこれからもグレイザーの存在がまんゆのアキレス腱になると。
言いたいことは判るが、個人的にはあまり同意しない。まずグレイザーの買収後もまんゆは勝ち続けているのであって、2005/06シーズン以来、プレミアリーグは10シーズン中5回優勝、CLは2回決勝に進出し、1回は優勝した。確かにチェルシーとシティのせいで90年代ほど絶対的な存在では無くなったが、もし利息支払いと元本返済に消えた費用を強化に使っていたとしても、アブラモヴィッチとADUG(シティのオーナー)ももっと金をぶち込んでいたというだけの話だと思われる。





負債が消えても配当で利益吸い上げるだろという話もあるが、ピッチ内の成功を損なうほど配当に回すようなバカだろうか。しかもIPOしたとは言え、確か議決権は殆どグレイザー一家とその仲間たちにある。別にあの一家を擁護したいわけではないのだが、まんゆの競争力を削ぐ要因になると期待するのは無理筋だと思う。

ちなみに2014年の決算では「本当は払いたくなかったキャッシュアウト(unwanted spend)」が£34m、全体のキャッシュアウトの3割以下にまで減った。直近3シーズンの移籍市場での投資額を見ても、もう負債でどうこう言うフェーズは抜けた。あとはタイトルレースに戻るだけだ。

キャッシュフロー:2012年と2014年の比較)


(移籍金:2013/14〜2015/16)

※2015年8月12日まで






最後に今シーズンの成績だが、敢えて言おう。優勝でなければ、失敗と見なすべきだと。
いや、わかる。わかるよ。一昨年7位で、去年が4位。シュヴァインシュタイガーだとか、シュナイデルランだとか、デパイだとか、豪華な補強をしたからといっていきなり優勝は難しいだろ、という話はそりゃわかる。わかるが、天下のまんゆが2年連続CL圏内を目標にしますというのも味気ない話ではなかろうか。財務的には特に問題も無く、債務の返済は粛々とやってれば良い。とくに主力が高齢化しているわけでもない。世界チャンピオンも補強した。チェルシーモウリーニョ(第1期)が就任していきなり優勝したし、シティも5位→3位→1位と一足飛びにタイトルまで漕ぎ付けた。戦力的には実際問題難しいと思うが、そこで優勝と言い切るのが天下のまんゆではなかろうか。負け癖って、一度つくと中々抜けないからね。

一応の予想は3位。



(sources:The Swiss Ramble, Transfer League, Transfermarkt, Guardian)